約 774,127 件
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/60.html
「み、みくるちゃん…やっ!」 「こうしてみると涼宮さんも女の子ですね」 放課後のSOS団部室内にて、朝比奈さんに覆いかぶさられているハルヒ 両腕は押さえつけられ身動きが取れないハルヒを見下ろす朝比奈さん 微動だにすら出来ないハルヒをあざ笑うかのように唇を寄せていき押し付けた 「んっ…」 「ふふ、涼宮さんの唇…とても甘いんですね」 「や、やめなさい!みくるちゃんいいかげんにしないと怒るわよ!」 「いまの涼宮さんが怒っても怖くありません、キョン君もいませんし丁度いいですね」 そして再び重ねられる唇 キスから逃れようとハルヒが顔を動かすが朝比奈さんが許すはずもなく… 「んっ…!」 「ふふ、涼宮さん…楽しみましょう」 そしてハルヒの制服に朝比奈さんの手がかかり乱暴気味に引き裂くと…
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6558.html
Ⅳ ハルヒが部室に鍵を閉めた後、俺たちは特に話すことなく学校を後にした。 常に無言状態でいる長門が沈黙しているのはまあいつも通りの光景だ。だがそんな長門を間にしてハルヒと俺まで黙りとなると気まずいことこの上ない。こちらが黙ってたって独りで喋るハルヒが今じゃ長門と大差ないなんてのは十分異変としてみなされるであろう‥‥‥が、まあ致し方ないわな。あんなことの後だし。俺も何と声をかければいいか分からん。というよりも声をかけないのが一番に思える。 そんなこんなで長門と別れ、ハルヒともさよならの挨拶だけ交わし家に帰宅。妹がパタパタとやってきて出迎えの挨拶した後、もうすぐ夕食であるというメッセージを耳に入れながらも俺はマイルームへと飛び込んだ。鞄を置くのも忘れてポケットに手を突っ込み、一枚のしおりをひっ掴む。相変わらずの明朝体の字で書かれたメッセージには、こう書かれていた。 【気をつけて ためらわずに】 ‥‥‥え? これだけ? 想像していた言葉よりずっと短いぞ長門。というよりも抽象的すぎて分からん。気をつけろって、何に。ためらわずにって、何をだ。いつも俺に説明する時はもっと具体的で、辞書使っても分からなさそうな言葉を並べるのにどうして今回は‥‥‥。 いや、長門でさえこれ以上書くのは無理だったのか。そうとしか考えられん。それともしおりに書いたからあまり多く書けなかったか? なんでしおりに書いたんだ長門。 よく見なくたって長門の文字が書いてある裏面にハルヒの書いたSOS団のマークが目に飛び込んでくる。確かこのマークがカマドウマを蘇させたんだっけか。じゃあ今回もそんなような異変が関係してるということでいいのだろうか。 どんなに見たって明朝体の字体がポップ体に変わることはなく、とりあえずは服を着替えることにした。映画の件以降我が家のペットとなった雄の三毛猫シャミセンが足元にすり寄ってきては、制服が爪の餌食にならないよう足で追い払う。今でこそどこにでもいるようなこの猫は、驚くことなかれ、元は喋る猫だったのだ。顔に似合わず渋い声で、あの頃は長門とウマが合いそうなくらい哲学的な知識を持っていたが、さっきも言ったが今では普通の猫だ。急に喋りだすこともしないし、かといって急に猫背をやめて立ち上がったりなど‥‥‥ 「‥‥にゃ」 しない。断じてしない。そう言おうとした瞬間だ。言うって誰に? そんなことはどうだっていい。今目に映った光景を理解するのに頭が追いつかないからな。 今のはなんだ。新手のマジックか? 仕掛け人は誰だよ。出てこい。出てきて家のシャミセンを返せ。 ‥‥‥ほんとに一瞬だった。 俺がズボンのベルトに手をかけたまさにその、瞬きをする瞬間にだ。 ‥‥‥‥シャミセンが、‥‥‥消えた。 えらい動くの早くなったなシャミ。なんて悠長を抜かしてる暇はない。俺はベルトに手をかけたまま振り返ったり片足を上げたりしてみたが、シャミセンの姿が確認出来なかった。なんだ今のは。ドアは開いてない。ということはシャミセンは俺の部屋の中に違いないが、ベッドの下にもクローゼットの中にもいない。おい、シャミセン。いつの間に瞬間移動なんて会得したんだ。頼むからもう一度俺の目の前に現れてくれよ。猫缶やるから。 俺の本能が告げていた。何かが起こった。気をつけてってもしかしてこのことか長門。無茶すぎるぞいくらなんでも。 着替えを中止し、しおりをもう一度ブレザーのポケットの中にねじ込んだ後俺は急いでドアを開けリビングへ向かった。誰もいない。キッチンにも夕食を作っているはずのお袋がいない。まさかシャミセンと妹とお袋が組んで俺を脅かそうとしてるのか。まさかな。だとしたらキッチンの火もとぐらい消すもんな。 とりあえずは、火事になっては困るので火を止めておく。今日の晩飯はカレーだったのか。くそ、楽しみのうち一つじゃねーか。 ‥‥長門だ。こんな時は長門しかいない。 胸ポケットからケータイを取り出し、アドレスでナ行を探す。‥‥あった! 「頼むぜ長門‥‥‥」 そう寂しくも独り言を呟きながら、俺が受話器のマークのボタンを押そうとした瞬間だ。 ピンポーン インターホンが静まる家に響いた。インターホンだと? もう一度ピンポーンと鳴る。出るかでざるべきか。悩むまでもない。俺はケータイを持ったまま玄関へと向かった。こんな時に限って近所のガキのいたずらじゃないだろ。もしそうなら俺はゆっくりカレーを食べることにしてやる。 ドアを開ければそこにはまたもや見覚えのある顔が立っていた。言うまでもないが近所のガキじゃない。 「‥‥‥閉鎖空間です」 平和の象徴であるニヤケ面を無くした古泉がそこには立っていた。 「なんだと」 「閉鎖空間です」 「この野郎!!!」 俺はケータイを放り捨てた後、古泉に掴みかかった。古泉の顔がさらに苦々しいものへと変わる。 「あと6日あるって言ってたじゃないかお前!! それがなんで今日なんだよ、おい!!」 「お、落ち着いてください!! 争っている暇はないんです!!」 冷静でもなければ暴力まがいなことまでしてる。その上閉鎖空間が発生した理由を自分が告白しなかったと責められたくがないために古泉や、心の中では長門にまで責めていた。 ‥‥最低だな、俺。 「一体何故急激に閉鎖空間の範囲が広がったのかは、情けないことですが僕には分かりません。ですが今はその原因を探ることよりもこれを抑えることが先決です!!」 古泉が珍しくもそう声を張り上げると、胸ぐらを掴んでる俺の手を力任せに剥ぎ取った。機関とやらは超能力だけでなく、一応筋力トレーニングもつけさせているみたいだ。古泉が自主的にやってるだけかもしれんが。 ともかく、今は古泉の言うとおりそんなことを考えている場合じゃないようだ。古泉にそう怒鳴られ思考回路が少し冷静になってから気づいたが、俺の家以外は全て明かりが消えている。まるで人の気配がしない。 「‥‥閉鎖空間、って言ったな」 「ええ」 古泉はネクタイを結びながらそう答えた。家に帰ってからも学生服から着替えてなかったようだ。 「なんでお前がここにいる」 「それは‥‥ここは喜ぶべきなのかどうかは分かりかねますが、僕も貴方と同じく涼宮さんに招待されたからでしょう。5月の時とは違い、それほどSOS団の繋がりは濃かったということです。貴方や僕だけではなく、朝比奈みくるも長門有希もここにいるでしょう」 長門‥‥そうだ。 俺は古泉に背を向け、思わず後方に投げてしまったケータイを取りに行った。 「無駄ですよ。圏外です」 ケータイの画面を見ようとした時古泉がそう言った。圏外‥‥‥しまった、忘れてた。 「しかし幸運なことにも、閉鎖空間ということで僕の能力がフルに使えます」 古泉が微笑みながらそう声に出すと、赤い光が古泉の周りへと集まっていった。 「貴方の家に早く来れた理由もこれです。僕はこれから朝比奈宅へと向かいます。貴方は長門さんの所へ」 「行って‥‥その後どうすりゃいい。どこへ行けばいい」 「おや? 貴方ともあろう方がお気づきではないのですか?」 徐々に赤い球体へと化していく古泉が、声を反響させながら俺にまるで面白いジョークを聞かせるような口調で言った。 「もちろん、学校ですよ」 「では」 そう一言付け加え、古泉は鷹が獲物を見つけた時に急降下するような速さで西へと飛んでいった。朝比奈さんの家ってそっちなんだな。知らなかったぜ。 「でも今は長門だ‥‥‥」 長門が邪魔したからこんなことになったのでは? と疑ってしまう気持ちが心の隅にある。今まで散々長門に助けてもらっておきながら、そんなことを思ってしまうのはいくら相手が宇宙人とはいえあんまりだろう。少しでも都合が悪くなると他人のせいにするのは良くないことだ。良くないことなんだぞ俺。 「シャキッとしろ‥‥‥」 ママチャリの鍵を取りに家へと戻る。長門に会いに行った後学校へ行くとなると断絶走るよりチャリの方がいいからな。さすがに坂道は諦めるしかないだろうが。 長門はちゃんと待っていてくれていた。もちろんマンションの外で。 「長門」 「状況は把握している」 「そうか」 長門が俺の隣へやってきたので、後ろに乗るよう指で合図した。周りが暗いせいか長門の瞳の色はよりブラックさが増していたが、そんな中でも本当に乗っていいのか訪ねるような礼儀正しい輝きは失っていなかった。もちろん、いいとも。 長門を乗っけ、俺は学校へと全速力で向かう。真っ暗な道の中、電灯の明かりってやっぱり大事なんだなと思いながらも俺は自転車の回転にともない光る心許ないランプを頼りに道を進んでいった。まあ車はこないから大丈夫だろう。思い切って車道へ出てみる。とは言っても、本来自転車は車道を通らなきゃならないんだけどな。 「‥‥‥‥こうなることは避けられなかった」 まるで重力を感じない長門がそう呟いたのが聞こえた。自転車の漕ぐ音以外はそれしかなかった。 「どういうことだ」 「貴方が涼宮ハルヒに好意を伝えていても、伝えることがなかったとしても、遅かれ早かれ必ずこうなっていた」 「そりゃ、なんでだ」 今まで長門の無機質さに安心したことは幾度もあったが、その返答だけは無機質さが余計に不安を煽った。 「何故なら、」 「この情報爆発を起こしたのは、涼宮ハルヒではないから」 キキーッと自転車が唸りを上げて止まる。坂道だ。 「長門、それはい‥‥」 「上って」 「いや、だがな」 「大丈夫」 大丈夫、か。俺は長門を自転車に乗せたまま長い長い坂道を走ることにした。朝かったるく上ってくるのが嘘のようだ。電動自転車よりずっと楽に足が動く。 「‥‥‥誰だ」 「‥‥‥」 「今回のこの世界征服みたいなのを企んでいるのは、一体誰なんだ」 「言えない」 言えない? 言えないってなんだ。言わない、じゃなくてか。 「‥‥‥‥‥」 自転車が学校に向かうにつれて、俺の足取りは重力を取り戻したかのように重くなっていった。俺の告白は本当に関係なかった、それが確かになったというのに。 「長門の親玉が言うの禁止してるのか?」 「‥‥‥‥」 これも駄目か。首を縦か横かに振ってくれるだけでいいのに。 それから少しの間があったが、長門のおかげでどうにか早めに学校の校門前へ来れた。まだ古泉達は来てないようだ。 「入れない、か」 相変わらず寒天のような壁が俺の手の行く手は阻む。長門も興味を持ったのか片手を壁へとくっつける。反応は俺と同じだった。 「入れそうか?」 ふるふると、微かに首を横に振る長門。 良かったな古泉。お前の専売特許その1は守られたようだぜ。 古泉、か‥‥。 「なあ長門」 こちらを見ないで当の本人は壁をプニプニつついたりして遊んでいた。遊んでいるように見えた、が正しいのかもしれんが。ともかく、耳は耳でちゃんと働いているだろう。遠慮なく話すことにした。 「今回、ハルヒの力を使ったのが他の奴なら、どうやってハルヒと同じ力を得たんだ? なんで俺たちSOS団をここに残したと思う?」 無言か、と思いきや長門はちゃんと返事はしてくれた。 「涼宮ハルヒの自律進化の可能性を握る、情報を生み出す力は現在全宇宙の中で1つしかない。その保有者が涼宮ハルヒだった」 だった、ね。 「誰かが奪ったってことか」 爪先で壁をなぞる。水面をなぞるかのようになめらかに動くその白い指は、肯定と捉えても良さそうだ。 「何故私達が此処にいるのか」 長門はそう区切り、 「不明」 とだけ言った。 「その犯人が意図的に残した可能性は?」 これの返事はサイレント。だが勘でわかる。きっと犯人にも想定外だったんじゃなかろうか。 どういう筋道でハルヒの力を奪取したかは不明だが、おそらくハルヒから力をとったのは連続的な閉鎖空間が起こる前だ。その前はハルヒが能力で噂をあれやこれやの人々にバラまいたから、その間だろう。そして手に入れるや否や長門に口止めするよう、願望を実現する能力を行使した‥‥。 ‥‥疑問点残りまくりだ。しかし今はこれだけのことしか分からない。少なくとも俺の頭じゃな。 俺が真犯人は誰なのかを思惑していると、古泉達が飛んでやって来た。朝比奈さんが古泉にお姫様だっこされて顔を赤面させている。古泉、無事にこのことが終わったら覚悟しておいた方がいいぞ。新月の夜とかな。 「ええ、楽しみに待たせてもらいます。その為にも、これを早く終わらせましょう」 古泉がお得意のスマイルのまま学校へと歩み寄ろうとしたので、俺はそれを止めた。長門と話す前のこいつの様子から察するに、真相を知らなさそうだからな。 俺は朝比奈さんと古泉に長門から聞いた話をダイジェスト版で伝え、顔が青ざめていく朝比奈さんや笑みが消えマジな顔になっていく古泉達の反応を伺った。 古泉は話を聞き終えると、すぐさま俺に頭を下げた。おい、やめろ。 「いいえ、言わせてください。本当に申し訳ありませんでした」 「俺だってお前の胸ぐら掴んだたぞ。謝るのはむしろ俺の方なんだから、顔を上げてくれ」 オロオロする朝比奈さんを横になんとか古泉は顔を上げた。表情からは本当にホッとしたものが見える。筋肉トレーニングは知らんが、機関とやらはどうやら馬鹿丁寧な礼儀作法を訓練させてるみたいだな。 「古泉。ハルヒは今どこにいる? 学校にいると思うか」 学校をおおうゼリー壁を一瞥しながら、古泉は「断定は出来ませんね」と、不安残る返事をした。俺の告白の推理が外れていたから自信でもなくしたか? 「貴方の家に訪れる前に、真っ先に涼宮さん宅へ向かいましたが、明かりは皆無でした。僕はてっきり涼宮さんが起こしたものばかりだと信じきっていたので疑問にも思いませんでしたが‥‥‥そうですね、長門さんの話が本当ならば涼宮さんが此処にいるかどうかまでは分かりかねます。能力を持たない彼女は普通の女子高生ですからね。本当の世界に取り残された可能性は低くありません」 俺も普通の男子生徒なんだがな。 「ですが、この学校には確かな第二の閉鎖空間があります。閉鎖空間を引き起こした者から招待を受けた者が入れる、いわゆる私的領域です。真犯人は間違いなくここにいるでしょう。僕たちが学校の中側にいないということは、パーティーの招待状を送っていないということですから、僕たちの存在は彼もしくは彼女にとってはイレギュラーそのもの‥‥‥」 手の平を壁に当て、表面を震わせる。 「‥‥‥入れます。皆さん、手を繋いでください」 閉鎖空間にダイレクトにくぐったことがあるのは俺と古泉しかいない。覚悟を決めて俺が古泉の差し伸べられた手を握ろうとした時、ひじの部分に小さな力が加わった。掴んでいるのは朝比奈さんかと思ったが、意外にもそれは長門だった。青白い光に照らされた長門がもう片方の手に持つものを俺に差し伸べる。 「これは‥‥‥?」 拳銃。今ある俺の頭の中にあるわずかなボキャブラリーを用いるならこれほどピッタリな言葉はあるまい。SF映画に出てくる未来人が持つ光線銃とも言っても大体の形が想像つくんじゃないか? 「また物騒な物を持ってきたな。これで戦うのか?」 「戦うためのものではない。戦力をほぼ無力に低下させる殺傷能力のない道具」 よく分からんな。もっと簡単な言葉で言ってくれ。 「麻酔銃」 ちらりと横を見れば朝比奈さんも同じ物を持っていた。ウマの耳に念仏、ということになるような気がしてならないんだが。 「着衣の上からでも戦力を抑える確率は高いが、出来れば皮膚直々に当たるよう打つのが好ましい」 「俺は親父がハワイに連れて行ってくれたことがないからな、こういうものを扱うのに慣れてないんだ。持ってたって意味なしになるかもだぞ」 「それでも所持すべき。何故なら私は今回、攻撃許可が出ていない」 なんだと。また親玉の禁止令か。つまりいつぞやの朝倉の時みたいに、相手を分解させる因子を交えてどうこう出来ないということになるのか。 なんでやねん。 「‥‥‥‥」 話すことはもう話した。そう言いたげな無言だった。 「行きましょう。あまりゆっくりしていると、世界が入れ替わります」 古泉の分の麻酔銃はないようだ。まあそれもそうか。赤い粒子を使った専売特許その二があるしな。 古泉の手を俺が握り、俺のもう片方の手を朝比奈さんが、そして長門。 「皆さん、目を閉じてください」 どうでもいいが未来人も超能力者も力を発揮するところを見られると何か恥ずかしいことでもあるのか。実は人生における最大限の変顔をしてるとか、まさかな。 古泉が率先して歩き始めたので、急いで目をつむり古泉にならった。くぐる時に水面にあたる感覚があるものなんだとまこと勝手に意識してしまうのだが、今回もやはりそんな感覚はなく、数歩歩いただけで俺たちは閉鎖空間の中へと入ることに成功した。目を上げれば広がるは灰色の世界。文字通りグレーゾーン。ん、意味は違うか。 「神人はまだいませんね‥‥‥それとも、とっくに僕たちの本当の世界の方へ出てしまったか‥‥ですね」 「冗談はやめろ。で、この後どうするんだ」 ハルヒを探すのか。 元締めを探すのか。 「同時進行がいいと思われます。一応僕も含めて全員が防御手段を持っていますから、探すのもバラバラがいいかと」 朝比奈さんを独りにするのか。その考えには賛同出来ん。 「ではこうしましょう」 古泉が人差し指をわざわざ立てて提案をした。本当にそういう仕草好きだなお前。 「2人ずつに別れましょう。戦力的に分けて長門さんと朝比奈さんのペアでいいのでは?」 長門は攻撃出来ないんだぞ。 「防御も出来ませんか?」 「可能」 「だそうです」 要注意人物に危害を加えるのはアウトなのか。 「‥‥‥」 「決まりですね」 古泉はそう言い切ると、校舎を指差した。まるで犯人を名指しする名探偵のように。 「僕たちは旧校舎を含めた西館側を、長門さん達は体育館を含めた東館側をお願い出来ますか?」 「ええと、そのぅ‥‥‥」 どことなく不安そうな素振りを見せる朝比奈さん。それはまだ見ぬ敵が校舎にいることもあるだろうが、大部分は長門と一緒だからかもしれない。しかし守ってくれることに関して長門ほど心強い者もいないのは確かだ。朝倉の時も、俺が受けた傷は長門自身に蹴られたところ以外はない。 ‥‥‥‥朝倉、か。 「どうかしましたか? 僕達も早く行きましょう」 気づけば長門達はすでに校舎東館へと歩を進めており、俺達はぽつねんと運動上に立ちすくんでいた。 「いや、犯人は誰かを考えていただけだ。行こうか」 「ええ。とは言っても僕は部室にいるのではないかなと思っているのですが」 SOS団、もとい文芸部室にロングヘアーの女子生徒が窓の向こう側を眺めている光景が目に浮かぶ。まさか。あいつなら長門に消されたはずだ。 不安に苛まれながらもやや駆け足気味で俺らは学校へと侵入。入り口は長門が先に開けておいてくれたようだった。 「涼宮さんにしろ、遅れてやってきた異世界人や何かにしろ、部室では何かが待ち受けているでしょう。まああくまで僕の勘ですが」 自身あり気だな、古泉。だったら最初から4人で行けば良かったじゃないか。 「もしも、ということがありますからね。また外れたら恥ずかしいでしょう?」 古泉に限らず、俺や朝比奈さん、恐らく長門でさえも真っ先に部室が怪しいと目論んでいたと思うんだがな、まあいい。とりあえず行ってみなきゃな。 電気をつけようとしたが、古泉に「犯人に気づかれない方がいいでしょう」と言われ仕方なく暗闇の学校内をなるべく音を立てずに旧館へと向かう男子生徒2人組。状況だけ見れば肝試しをしにきた友達に見えなくもない。 「着きました」 言わなくても分かってる。 「電気がついてないようだが」 「‥‥‥‥‥」 長門の真似か、無言で俺に返事をする。そしてどことなく緊張した趣でドアを古泉は開けた。緊張から解放され、頬の筋肉が緩むのが垣間見える。 「‥‥‥敵はいません」 敵はいないな。んでもってハルヒもいないじゃねーか。絶不調だな今回も。 「となると虱潰しに探すこととなりますね」 「じゃあ僕は一階から探していくので、貴方は三階からお願い出来ますか?」 文芸部室は2階にあるからな。ちょうどまたこの部屋に落ち合う形になるのか。いいだろう。 そうやって俺たちは別れることになり、俺はといえば明かりもなしで独り真っ暗な教室を探すのはさすがに気がひけるのでパチパチでスイッチを押しては一通り見渡し、そして消すという行動を繰り返していた。ドアを開けた瞬間、エイリアンよろしく急に襲いかかってくるというハプニングにはどうにか合わずに済み、またもや二階を探しに来た時は本当に敵なんているのかどうかを疑い始めていた。古泉はまだ一階を探しているのか。先にSOS団のドアを開けさせてもらうぜ。 二度目の、いや、本当の世界を含めて三度目の部室訪問。客観的に見れば実に団員その一らしい行動だ。といっても、SOS団の求める不思議体験なんて面倒くさい事柄は俺は即刻パスするがな。 「‥‥‥‥ん?」 ‥‥‥そうやって、少し自分も平和ボケな考えをしていた頃だ。今まで当たり前のように点いた電灯が、ここでは点かないことで少し焦りが出始めた。何故この部屋だけ点かない。本当に電灯が切れちまったか? パチパチと何度も無意味に押してはみるものの、効果なし。電灯が点かなかったぐらいで何を動揺してるんだ俺は、とツッコミを入れたいが、しかし何故だか俺にとってそれが何かとても悪い予感なような気がしてならなかった。 古泉を待とう。なんだか入らない方が良さそうだ。 二階をまだ探していないらしい古泉のために、俺はコンピ研の部屋を調べる。まあもしがなくてもハルヒはここには来ないだろうが‥‥‥。 俺自身、コンピ研に訪れるのはこれで二度目である。だから詳しくはどこに電気のスイッチがあるかは知らないのだが、まあ文芸部室と同じだろう。手探りで壁を探ればスイッチは意外と早く見つかり、それじゃ遠慮なくとボタンを俺は押した。 ‥‥押した。点かない。 もう一度試しにやってみる。点いた。なんだよ、びっくりさせないでくれ。 ‥‥‥‥にしても、随分とコンピ研の電灯の光は幻想的だな。部屋全体に海が広がったかのように綺麗な青色に‥‥‥‥って! 「部屋から出てください!!!」 言われなくても分かってる、っと大声で返事つける代わりに俺は体を翻し、ドアをも閉めずに部屋を出た。 ――――‥‥‥間一髪!! この表現ほどぴったりなものはない。 俺がコンピ研の部屋前を横切るのとほぼ同時に、背後がとてつもない破壊音でぶっ飛ばされるのを耳にした。騒音なんてもんじゃない。ニトロ爆弾がコンピ研部長のパソコン近くで暴発したと言ったほうがまだ通じる。人生の内でこれほど死が近づいたのは初めてだ。朝倉の件と同位でトップを占めている。 金輪際会いたくないベスト2にノミネートされてる奴の手が、俺の背後にあった。窓側から部室に向かってパンチしたらしい。するな馬鹿。 「神人です!!」 だろうよ。あれがハルヒに見えるか? 「どうすんだ!?」 「僕一人では‥‥‥どうにもならないでしょう。ひとまず、長門さん達と合―――」 けたたましい轟音が真上で鳴り響き、古泉のその先の言葉は聞こえなかった。今度は三階のどの部屋かは知らんが吹き飛んだらしい。 「‥‥一刻も早く、」 さすがの古泉もこれにも苦笑いさえも浮かべていない。 「涼宮さん、あるいは犯人を」 そう言い終えると、神人とは対照的な赤い輝きを体中に集めだす。まさか一人で戦う気か。 「いくら僕でもそれはそんな無茶はしません。神人一体を倒すのに最低でも5、6人はいないと」 「じゃあ何をする気だ」 俺の言葉も少し語気が強くなる。そう喋らないと聞こえないからではない。 「囮ですよ。少し神人を遠くに追いやるだけです。それよりも急いでください。稼げる時間はそう長くありません」 神人がパンチで開けた穴から音もなしに、球体となった古泉は高速で神人のもとへと飛んでいった。さっきまでのんびりとハルヒを探してたのが悔やんでも悔やみきれないぜ。 しかし、どこにいる? 部室にもいないし、もし五月の閉鎖空間の時にハルヒと出会った場所ならばとうに長門達が見つけてるはずだ。連絡がないのは何故だ。 「どこだハルヒ‥‥‥」 今回はマジでハルヒがいないのか? 有り得なくはない。能力を持たないハルヒは普通の女子高生云々を古泉が言っていたこともある。となるとハルヒではなく犯人を探さなきゃならんことになるのか。どちらにしよ、神人が出た今は長門から借りた武器を常に手に持っといた方が良さそうだ。もしハルヒが居て武器が見つかっても、こんだけ校舎が滅茶苦茶になってるんだから今更だろ。 そうこう無駄な時間を過ごしている内に、また青白い光が元コンピ研室から漏れだした。まずい!! 俺は何故だかとっさにSOS団のドアをひっ掴み、気づけば中に入っていた。ここはコンピ研の隣なんだから逆にまずいだろ! 冷静な思考とパニックとが争いながら、今一度部屋から出ようとドアノブを握ったところで俺は強烈な揺れを感じ、体制を崩してしまった。また三階にパンチが打たれたらしい。 ふと窓を見れば奴の胴体が全面に広がっていて、そこに赤色の何かが体当たりをする瞬間だった。あまり効いているように思えない。 「‥‥‥‥!!」 何かの助けになるかもしれない。ふいにそう思い、銃を片手に握り、俺は窓へと駆け寄った。麻酔銃とは言ってたが、なんといってもメイドインスペースだ。神人相手にも案外効くかもしれん。 鍵を開け、片手で窓を開けようとするところまでは良かったのだが、何故かそこから先に進まない。つまり窓が開かないのだ。 「どうなってる‥‥‥」 窓のすべりが悪くなったなぁ、とかいうレベルではない。両手で窓を開けようと全力を注ぎ込んでいるのにまるで瞬間接着剤で固めたかのようにびくともしないのだ。何故。 「そんなの俺が知るか」 この際なんでもいい。窓さえ開けばいいのだ。多少手段が強引でも、どうせ閉鎖空間の中なのだから構やしないさ。 俺は側にあった団長様の椅子を握ると、思いっきり窓にぶつけた。映画のワンシーンに窓がスローモーションで割れる場面があったりするが、まさにそんな感じに‥‥‥‥なるはずだった。 俺が投げた椅子は予想外にも鈍い音を立てた後窓から跳ね返り、部長から奪ったパソコンへと激突した。言うまでもないがパソコンは床へと落下し、液晶画面がバリバリに割れていた。いつからうちの学校を防弾用を採用したんだ。いや、皆まで言うなよ。俺にだって分かってるさ。どうやらこの部室だけは安全地帯らしいってことがな。 兎にも角にもこの部屋からはどうしようも出来ない。ならば部屋を出よう。 足早にドアへと寄り、開けようとした瞬間だ。 思わず、反射的に体がビクッとのけぞったところだろう。ドアノブを握ったまま、真後ろにいる幽霊でも見るかのような仕草で俺はゆっくりと振り返った。 ‥‥‥簡単な例を上げようか。ある男性が透明なガラス箱を用意、その中にコイン入れて蓋をした。完全密閉空間の中にあるコインは箱に穴でも開けない限り外に出ないのだが、不思議なことにその男がシャカシャカと箱を降っている間に、そのコインが消えてしまうのだ。もちろん観衆の目の前だ。 あるべきはずの物が消えるというビックリ現象を見せつけられ人々は驚きの表情が隠せないのだが、まだまだ超現象は終わらない。その男が再びガラス箱を音もなく降り始めると、これまた不思議なことにいつの間にやらシャカシャカと上と下の面に交互にぶつかるコインの音が反響し、振るのを止めればさっきまで消えていたコインがまた出現しているのが目の当たり出来ているという‥‥‥。 何が言いたいか、お分かりになられただろうか。 この部屋はどう考えても密室で、窓を破ることが出来なければドアを通ることも出来ないはずだ。俺がドア側にいるからな。 しかしハルヒは確かに、団長席の側にいた。 俺の視力が相当衰えていない限り、腰に手を携えこちらを見据えているのはハルヒに違いない。あんなポーズをとる奴他におらん。 「ハルヒ‥‥‥」 体の向きを変え、ハルヒと対峙するような形で俺はハルヒと向き合った。銃は背中とドアの間に右手で隠している。そこらへんは抜かりないぞ。 「‥‥‥いつからそこにいたんだ?」 どうやって、の方が正しい質問だったかもしれない。 「さっきよ」 そう曖昧で素っ気ない返事をすると、ハルヒはこちらを見るのを止めて背後の窓の景色を見始めた。外では古泉がなんとかして神人を遠ざけようと奮闘している最中だ。 「‥‥‥茶でも飲むか?」 何を言ってるんだ俺は。こんな校舎が穴あきだらけになって、悠長にまずい茶を啜っている暇などないんだぞ。ハルヒと二人、こうして文芸部室にいるというのが懐かしく思えたからだろうか。とはいっても、数時間前までも二人きりだったんだけどな。 そんな言葉をハルヒはガン無視を決め、ただ黙々と古泉と神人の戦闘を眺めていた。現代版ダビデとゴリアテの闘争シーンを窓というスクリーンを通して見る一般客、ハルヒ。 「なあハルヒ、とりあえずここを出よう。実は長門達がいるんだ」 だがハルヒはこちらに関心を示さず、ただひたすらに窓の外を見ている。そんなにそれが面白いか。 「‥‥‥なあハルヒ、」 「いいじゃない」 口を効いたと思えば主語がない。何がいいんだ。 ハルヒは顔だけこちらに向き直り 「アンタがここにいて」 また窓へと視線を戻してから 「あたしがここにいる」 そして締めの言葉に 「それでいいじゃない」 とだけ言った。それってどういう意味だ。取りようによって告白にも聞こえなくないぞ。 しかしそんな揶揄するようなことを言ったってハルヒはもうこちらに向くことはなかった。いつもなら 「何言ってるのよキョン!! あたしがそういう意味で言うわけないでしょ!!」 ぐらい言ってくるのに。 とにかく、そんなハルヒの言葉に惑わされる俺ではない。なんとかしてテコでもあそこからハルヒを引き離さなければ。俺は続けざまに質問をすることにした。 「ハルヒ、どうだ最近は」 「‥‥‥‥」 「学校楽しいか? SOS団の活動とかさ」 「‥‥‥‥」 長門ばりの無言。それはつまらないっていう意思表示じゃないだろうな。まさかこっちの、赤い球体と青い巨人が闘っている非日常の方が楽しいか? お前にとってSOS団なんてそんなものだったのか? 今世界を飲み込まんとばかり広がっている閉鎖空間は、今回ハルヒが起こしたものではない。でもこのハルヒの様子を見ていると完璧な無関係という風に判断するのは早とちりというやつだ。そうだろう? というより、むしろ‥‥。 ‥‥‥‥。 「お前はここにいたいのか?」 「‥‥‥‥」 「SOS団を作って半年だな。それまでにいろいろやってきた。夏には野球、七夕、部長探し、古泉のサプライズ企画、プール、盆踊り、花火大会、バイトや天体観測、昆虫採集したり俺ん家で宿題を皆でやったよな。秋になってからは映画を作り出して放映するわいきなりライブに出るわして楽しんできた。もちろんハルヒだけじゃないぜ。俺や古泉、朝比奈さんや長門全員がSOS団を通じて楽しんできたんだ。そしてこれからも。まずは冬に古泉がきっと何かしてくれるだろうさ。そんな不思議な何かが待っているのに、ここにいるのがいいのか?」 ハルヒはSOS団の目的を覚えているよな? 宇宙人や未来人、超能力者達を見つけ出して一緒に遊ぶことなんだろ。もう願いは叶ってるんだぜ。わざわざこんな世界に留まらなくてもな。 覚えて‥‥‥るよな? 「ハルヒ。SOS団って何だったか覚えてるか?」 「‥‥‥‥覚えてるわよ」 そうか、良かった。 「何するところだったけ」 「あんた、団員その1のくせにそんな大事なことも覚えてないの?」 「‥‥ああ。何分記憶力が弱い上に、普段はボードゲームしたりマンガ読んだりしかしてないからな。で、なんだった?」 「もう、世界を大いに盛り上げるために活動するための涼宮ハルヒの団じゃない。忘れないでよね」 「ああ、そうだったな」 ‥‥‥‥。 「またまたつまらない質問悪いんだが、確か前に一度こんなとこに迷いこんだことあったよな」 「‥‥‥あったわね」 「あれいつだった?」 「‥‥‥忘れちゃったわよ。結構前でしょ」 「まあ確かにかなり前だったな」 ここまで会話して、俺の中で何かが引っかかっていた。なんだろう。何かは分からないが、身の毛のよだつ戦慄がそこには含まれているような気がする。嫌な予感しかしないぜ。それも飛びっきりのな。 意識もせず俺の心臓はバクバクと音を立て始めていた。放課後も心臓を高鳴らせてはいたが、それとは全く似て非なるものだ。恐怖と緊張の入り混じる本能が動かす鼓動。やばい、口の中が乾いてきた。 「‥‥‥ハルヒ」 「何」 俺が何度も何度もハルヒハルヒと質問ばかりしているのに、文句一つ言わないで冷静に答えるハルヒの姿がますます異様に思えてきた。まるで質問されるのを待っているかのようだ。ははは、いくらなんでもそれは気のせいか。 気のせいであって欲しい。 俺はハルヒの後ろ姿を凝視しながら、頭の中で緊急裁判を行っていた。陪審員は11人だ。いや、ここは日本らしく裁判員5人としておこう。 そしてその議題はこれだ。一世一代の賭けに出るか出ないか。とある質問をするかしないかと置き換えられる。あの質問をするのは簡単なのだ。しかし、あれは二度と思い出したくない出来事で‥‥‥。 ―――――ためらわずに。 ‥‥‥‥‥。 「前、こうしてこんな妙な空間に留まった時さ」 長門の言葉に後押しされ俺はゴクリと唾を飲み、有り金全て賭け半か丁かの選択を余儀なくされ、ええいままよと丁を選択した趣でもう一度口を開いた。 「俺たち、どうやってここから出たか覚えてるか?」 「‥‥‥‥‥」 ドクン、と心臓が脈打った。後ろに隠した麻酔銃を握る力に思わず力が入る。この質問に何の意味があるのか。返答のあとには何が待っているのか。知りたくない。 「‥‥‥‥‥‥さあ、」 ハルヒがそう呟いた時、一瞬だが笑ったような気がした。それがどういう笑いなのか‥‥‥ 「覚えてないわね」 ‥‥‥‥‥‥‥。 覚えて‥‥ない? 「だってかなり前じゃない。あたしそういうの興味なくなっちゃうと、忘れちゃうのよね」 せめてこっちを向いてそれを言ったらどうなんだ。覚えてないだと。俺だっていつまでもこんなこと覚えておきたくないさ。出来ることなら忘却の彼方に消し去ってしまいたいような記憶だよ。だが今回ばかりはこれを覚えておいて良かったと心から思うぜ。 ハルヒの「覚えてない」は、明らかに作りものだった。それは恥じらいの行動も言動も含まれておらず、ましてや本当に忘れてしまった反応ではない。知らないのだ。今目の前で神人と古泉の戦いを目視している俺の目の前のハルヒはこういう事実があったことを完全に知らないでいるのだ。 ‥‥‥まさかと思うだろ。だって誰も考えないはずだ。そうだろ? 教室の後ろのクラスメートの様子が少しいつもと違うからって、わざわざ指さして「お前はいったいなんなのか」なんて叫ばないだろ。誰だって真っ先に風邪をひいたか、腹イタを起こしたか、教科書忘れたかを疑うはずだ。 つまりだ。何が言いたいかと言えば、俺は今の今までになって、まさかこんなアホな質問をすることになろうとは思ってもいなかったのだ。 俺にとって「進化の可能性」でも「時間の歪み」でもましてや「神」などではないと思っていた女子高生。そいつに麻酔銃をゆっくりと向け、一言だけ言ってやった。 「お前、誰だ」 →涼宮ハルヒの分身 Ⅴへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3622.html
涼宮ハルヒのVOC プロローグ なんてことない1日だった。 長門の読書姿も。 朝比奈さんのメイド服とお茶も。 古泉の憎たらしい笑顔も。 しかしなんてことない1日も奴によってなんてことなく破壊されるのである。 分かるよな? 「みんなおまたせ―ーーーっ!!」 ハルヒの奴勢いよくドアを蹴破ってきやがった。 その手には紙袋が提げられていた。 「あ、こんにちはぁ」と朝比奈さん。 「こんにちは」にこやかに古泉。 「・・・・」これは無視しているわけじゃないぞ?ちゃんと会釈しているからな。 「よぉ」と無難な言葉をかける俺。 ハルヒはドアを乱暴に閉め、団長の机のパソコンを起動し始めた。 いつもなら「みくるちゃん!お茶!」という流れに行き着くのだが、今日は真剣にパソコンとにらめっこをしている。 ハルヒの持っている紙袋も気になったので声をかけてみる。 「なぁ、ハルヒ。その紙袋はなんだ?」 すると、ハルヒは喜色満面の笑みで 「聞いて驚きなさい!」全員がハルヒに耳を傾ける。 「初音ミクよ!!」 こうしてまた俺、いや、人類の迷惑が始まった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4700.html
「おはようございます、キョン中尉」 ん、おはよう、いつものを頼む。まぁおはようってよりは時間的にはこんにちはだがな。 いまこの艦は停泊中だから仕事もなく気楽なもんだ、だもんで甲板士官たる俺様もゆっくり朝寝がしてられるというものだ。 「今日は新任の艦長がいらっしゃる日ですよ、なんでもすごい優秀なエリートだそうですね」 あぁそうらしいな。 「らしいって…同期なんでしょ、中尉と」 あー、同期っていうか年次が一緒というだけだ、学校が違うんだ。俺は北部士官学校卒、あちらさんは東部士官学校卒で等級外の艦とはいえ早くも艦長の超エリート様だからな。学校が違う劣等生の俺と接点なんざないよ。 東部っていえば谷口だろ、たしかあそこ出身のはずだぜ。 『総員甲板に集合せよ、総員甲板に集合せよ』 「いらっしゃったみたいですね、行きましょうよ中尉殿」 さて甲板士官の位置はここだな。しかし眠いな…。 「艦長、全員集合いたしました、お願いします」 「SOS号艦長涼宮ハルヒ、只の軍人には興味ありません、この中に敵国のスパイ、脱走兵、不名誉除隊者、兵役忌避者がいたら私の所にきなさい!」 そこには目の覚めるような美人がいた……。 *******************************
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2856.html
1 後ろの席の奴が、俺の背中をシャーペンでつついている。 こう書けば、下手人が誰かなど説明する必要はまったくないと言っていい。 なぜなら、俺の真後ろの席に座る人物は、この1年と3ヶ月余りの間に幾度席替えがあろうと、いつも同じだからである。 「あのなぁハルヒ。」 「何よ」 「そろそろシャツが赤色に染まってきそうなんだが」 「それがどうかしたの」 クエスチョンマークすら付かない。涼宮ハルヒは今、果てしなく不機嫌である。 去年も同じ日はこいつはメランコリー状態だったなぁと追想にふけることにして、俺は教室の前方より発せられる古典の授業と、後方より発せられるハルヒのシャーペン攻撃をしのぐ。思えばこの日は俺の今までの人生の中で最も長い時間を過ごしている日で、それは俺がタイムスリップなど無茶なことを2回もしているからに他ならない。 俺の、そして恐らくはハルヒの人生でも印象深い日。今日は七夕である。 去年と違うのは、こいつの憂鬱の原因を知っていることだが、かといってまさか「俺はジョン・スミスだ」などと言う訳にもいくまい。切り札はとっておかねば。というわけで、やはり俺はハルヒに小突かれ続けなきゃいかんらしい。今日は早めに学校を出て俺の家でSOS団七夕パーティーをやることになっているんだが、この機嫌で大丈夫なのかねぇ。ともかく、早く朝比奈さんのお茶が飲みたいね。俺にとっちゃ「かいふくのくすり」以上の効き目があるからな。あれは。 そんなこんなで終業のベルが鳴り、俺はさっさと部室へ退避する。 「はぁーい。」 ノックに応えてくれた朝比奈さんはすでにメイド服に着替えていて、いつものごとく俺に熱いお茶を淹れてくれた。俺は団長机に腰掛けてパソコンの電源を入れ、SOS団公式(学校的には非公式)サイトを開く。 「内容がない」というサイトのカウンタが回らない根本的な原因にようやくハルヒは気づいたようで、数週間前から活動日誌を団員持ち回りで更新するという面倒な行為を始めたのだが、長門が更新した回は数秒で読み終わるか、読み終えるまでに数時間はかかるとてつもなく長ったらしいコンピュータの話になるかの両極端だし、朝比奈さんが書いた文章はハルヒによって却下され代わりに写真をアップロードされているし(俺が気づいて削除したのはつい3日前だ)、古泉は古泉で長々しいミステリ論ばかりだし、ハルヒに至っては言いだしっぺのくせにサボるか、意味わかんない方程式だのを書くかなので、まともに日誌と呼べるのは俺が更新した分だけなんじゃないか? 「カウンタの回りが数倍にアップしたんですし、いいじゃないですか」 「そうは言うがな。古泉。」 「涼宮さんも満足げですし、問題ないですよ。彼女の精神の安定に寄与していることは間違いありません。精神自体はここのところ不安定ですがね。ま、今日はさらに安定しないでしょう」 まさにその通りだよ。痛む背中をさすりながら、今日のハルヒの様子を説明してやる。テーブルに座って本を読んでいる長門にお茶を渡すと俺の隣に来た朝比奈さんは、 「七夕は色々ありましたもんね」 と話しかけてきた。 「そりゃそうですね。タイムスリップしたり、世界を再改変したり――」 俺の回想はドアがノックなしに勢いよく開く音で中断された。一瞬の間。 「やぁ、ごめんごめん。遅れちゃった」 おい待てお前。さっきまでの不機嫌はどこいったんだ。去年と同じように竹を担いだハルヒが、にんまりと笑いながら入ってきた。全く、谷口によく似た人間をアシスタントにしている某番組のナビゲーターよりも態度がコロコロ変わる女だ。 「今年もみんなで願い事を書くのよ。毎年メッセージを送り続けなきゃ織姫と彦星だって忘れちゃうわ。」 今年もってことは、その竹もまた私有地の裏林からパクってきたのか。 「バレなきゃいいのよバレなきゃ。」 ハルヒは窓際に竹を置くと、俺を押しのけて団長席につき、中をゴソゴソと引っ掻き回し、短冊を取り出す。 「ちゃっちゃと書いて、早めにキョンの家に行きましょ」 実を言うと、俺の違和感は、この時からすでに始まっていた。 さて、何を書こうか。ヒントを得ようとハルヒのをみると、「彦星とさっさとくっついちゃいなさい」「織姫とさっさとくっついちゃいなさい」と書いてあった。 こいつにしてはなかなかロマンチックじゃないか。 「ちょっとキョン!なに見てんのよ。馬鹿なことしてないでさっさと書きなさいよ」 見えるように置いとくのが悪い。大体なに照れてんだよ。 「べっ、別に。」 ちなみに他の3人はというと、駄目だ、去年と似たり寄ったりで参考にならない。悩んだ挙句俺は、「毎日楽しい日々を過ごせますように」「無事に天寿を全うできますように」と書いたのだが、 「ふーん」 俺の短冊を見たハルヒは、なぜか複雑そうな顔をしている。 恐らく、この短冊が最終的な引き金だったんだろうな。 2 この後俺たちは全員そろって俺の家に移動して、何かの記念日を建前にかなりの頻度で開催されるSOS団的パーティーを楽しんだ。いつもそうだが、ドンチャン騒ぎである。途中で妹が乱入してきたのでなおさらだ。ハルヒがいつかの孤島の反省から酒をNGにしていなかったらと思うとゾッとするね。ツイスターやら2台つなげたノートパソコンやらありとあらゆる物が部屋の中に展開され、これを見て楽しくなさそうという感想を抱くものは一人もいないだろうな。 だが、なんだろう。この違和感は。 みんな楽しそうだったにもかかわらず、俺は漠然とした違和感を持ち続けていた。その正体をつかんだのは、すでにパーティーが始まってかなり経ってからだった。 それはほんの些細な違い。だが俺には、ハルヒのが無理をしてハイテンションを装っているように感じられたのだ。これはハルヒの精神分析医になれそうな古泉も同意見なようで、階下に飲み物を取りに部屋を出た俺は、古泉の「トイレに行ってきます」という声を聞いた。 「涼宮さんの様子がおかしいのはあなたもお解りでしょう。いやな予感がします」 廊下での会話だ。 「一体何が原因なんだ?」 「先ほど部室で言いそびれましたが、涼宮さんの憂鬱の原因は単なる七夕の思い出ではないのでしょう。彼女ははあなたを疑っているんですよ。」 「どういうことだ?」 「あなたにはお解りのはずですよ。とにかく、気をつけてください」 それだけ言うと、古泉は戻って行ってしまった。分かるような分からないような。どうすりゃいいんだ? 結局、その後しばらくして、パーティーはお開きとなった。帰っていくときのハルヒにも、無理している感じは残っていた。 自分の家でこういう行事をやることにはメリットとデメリットがあり、メリットは家に帰る手間が省けること、デメリットは騒ぎで部屋が見事にカオス状態と化すことである。いつもお嬢さまと少年執事に散かされた部屋を片付けるメイドさんの気持ちが良く分かる。しかし、帰るのと片付けるのではどっちが手間がかかるんだろうね。そんな事を考えながら部屋を片付けていると、くそっ、ノートパソコンの電源が付きっぱなしじゃねぇか。「キョン、あんたが明日持ってきて」と命令し、俺の反論は都合よく聞かずに放置してってんだから、電源ぐらい切って帰れてーの。 電源を切ろうと本体を開くと、テキストエディタが起動していた。 YUKI.N あなたはあなたの思う通りの行動をとればいい。 実に長門らしい、簡潔な文章である。だが長門がこういうメッセージを残すということは、何かが待ち構えていることと同義なのだ。 風呂に入り、俺は床に就いた。異様なプロフィールを持つ3人からの追加連絡はなかったからな。 3 うん、「また」なんだ。済まない。また俺はここに来ちまったようだ。 もう今度はレム睡眠談義は不要だろう。 ――キョン、起きて―― 予想通りというべきか、俺の夢にハルヒの声が乱入してきた。あまりいい夢ではなかったから惜しくはないけどな。 また首を絞められるのは嫌だと思いつつ、そんな思念だけで起きられるものなら俺は毎朝学校に行くときに苦労しない。結局、めでたく俺はまたしてもハルヒに首を絞められる運びと相成った。 さすがに目を開く。やはりというか―― 記憶そのままの奇妙な光に照らされた学校であった。 セーラー服を着たハルヒが俺の顔を覗き込む。ということはと思い、自分の体を確認してみると、やはり着ているものはスエットではなく制服だった。 「何なのかしら、ここ。去年と同じよね?」 「どうやらそうみたいだな」 さすがに2回目ともなると、ハルヒも驚いていない。 「キョン、とりあえず部室に行かない?」 その意見に否やはなかった。どうせそこ以外に行くところはないしな。パソコンを起動したらまた何かあるかもしれん。 荒々しくも手っ取り早い方法で職員室から「ぶしつのカギ」を手に入れ、部室棟へと向かう。 「あんたと話したいことがあるの。」 部室に着くなり、ハルヒはこう切り出した。普段は見せることのない、寂しそうな、不安げな、弱気な表情である。 「あんた、あたしに何か隠してない?」 さて、何のことだろう。心当たりがないのではなく、ありすぎて何のことだか分からないのである。 「この間、あんたが休みの日にみくるちゃんや有希や古泉君と一緒にいるところを見たのよ。それと、」 そう言いながら、ハルヒはそれ取り出した。 それは、 1年前のこの日、長門から受け取り、4年の時を過ごした、ハルヒの考えた宇宙人語が書かれた短冊だった――。 「あたし、昨日あんたの家に勉強教えに行ったでしょ?あのとき、あんたがトイレに行ってる間に、何気なく箪笥の引き出しを開けてみたら、これが出てきたの」 なるほど、疑うというのはこのことだったのか、古泉。しかし、自分の迂闊さのせいでまたしても世界崩壊の危機に直面することになるとは。 どうする?俺。だが、答えはすでに俺の胸にあった。 「この短冊に書かれている記号はね――」 「今から4年前にお前が東中の校庭に書いた、馬鹿でかいミステリーサークルのと同じ記号で、意味は『私は、ここにいる』だろ?」 このとき俺には、全てをブチ撒ける覚悟ができていた。世界がどうなろうともうどうだっていい、と思っていたわけではない。全てを曝しても、こいつは世界を変えることはないという自信がなぜかあったからだ。 「4年前の今日、東中に侵入したのはお前一人じゃない。女の子を担いだ高校生が一人いて、お前の線引きを手伝った」 ハルヒの表情が、不安から確信へと変わってゆく。 「俺は、ジョン・スミスだ」 4 「やっぱりね」 それから俺は、ほとんどの真実をハルヒに話した。ただ、こいつが神だとか進化の可能性だとか時間の歪みだとかというところは、改変された世界のこいつに対してもそうだったように、世界を変化させる力があるらしいことだけにとどめておく。俺にだってどれが本当なのかわからないしな。 殺風景な部屋で長門の電波話を聞かされたことから始まり、マッドな朝倉の襲撃、大人版朝比奈さん、閉鎖空間と神人、七夕の時間遡行、カマドウマ、15498回も繰り返された夏、映画撮影、改変された世界、それらにまつわる未来人・宇宙人・超能力者の組織・・・ 話していると、それぞれの光景が脳裏によみがえってくるようだった。俺の大切な思い出たち。それを今まで、目の前にいるこいつは知らなかったのだ。 そういえば、この閉鎖空間に神人は出現していないな。前回ここに来たときはもっと早く現れていたが、つまり、ハルヒの精神状態はイライラではなく、2人でここに来た理由もイライラではないのだろう。 言うべきことを全て言い終え、さてどうしたものかと考えていると、 「今度はあたしからも伝えることがあるの。」 って、まさかハルヒにも、俺に隠していたことがあるのか? 「そうよ。でも、あなたがジョンだって分かってない限りは伝えられない話なんだけどね。」 一呼吸おいて、 「あんたが去年の夏と冬から来たっていう4年前の七夕、なんであたしはあんな大きな図形を書こうとしたかわかる?」 あたしは宇宙人とか、未来人とか、超能力者が目の前にフラッと出てきてくれることを誰よりも望んでた。中学に入って、いろんな、そのときのあたしが考えられる限りの全ての方法で、何とかして特別な存在を見つけようとしていたの。 でも、何も出てこなかった。それに、周りの人たちが私を避けるようになった。そりゃそうよね。小学生のときのあたしがあれを見てもきっと避けてたと思うわ。だから、野球観戦に行ってから色あせたように感じてたあたしの日常は、限りなく無味無色になってしまったの。誰も自分のちっぽけさに気づいてない。誰もあたしのことを解っちゃくれない。だからね、あたし、決めてたの。 ――あの七夕の日、あの校庭にメッセージを書いて、そこに屋上から飛び降りて、全宇宙にメッセージを発信してやろうと。 家の自分の部屋には遺書をちゃんと残したし、もう図形を書いて飛び降りる以外にすることはなかったはずだった。 でも、校門をよじ登ってるとき、予想外のできごとにあった。あんたと出逢ったわけね。あのときのあんたほど、私の印象に残った人間はあんた本人以外ないわよ。「やれやれ」とかいいながらも、あたしを手伝ってくれて、宇宙人も未来人も超能力者もきっといると言ってくれた。 だから、あたしは、死ねなかった。やることが残ってしまったの。やるなら最後まで徹底的に不可思議な存在を探してやろうと思った。高校に入って、高校生になったあんたに出会うまで、ジョン――キョンはあたしの唯一の心の支えだったの。だからSOS団を作れたのも、今こんなに楽しい毎日を過ごせてるのも、ぜんぶキョンのおかげ。 このときの俺がどんな表情をしていたか、キャプチャー職人がいたらアップロードしてほしいぐらいだね。しばらくの沈黙の後、ハルヒは再び口を開いた。 5 「それからね、あんたの話を聞いて一つ不思議なことがあるのよ。あんたが前に会ってた佐々木って子、あの子もここみたいな、閉鎖空間って言うんだっけ?を持ってるのよね?」 「それはまず間違いないな。なんせ俺が実際に入ったんだからな。」 「実はね、あたし、あの子の顔を見たことがある気がするのよ。」 「確かに4月の頭に駅でお前と佐々木が出会ったときも、初対面にしては2人とも変だとは思ったが。でも、お前は佐々木のことを何も知らないんだろ?」 「そうよ。でも、・・・ううん、説明すれば分かると思うわ。あんたはあたしに変な能力が発生したのは今から4年前だって言ったわよね?あれは忘れもしないわ。」 中学に入って、あたしが世界に訴えようとする行動を始めて周りから避けられ始めて少しした日の夜、変な夢を見たの。 なんか自分がワープしてるような感じがする、変な空間を猛スピードで移動してる夢だったんだけど、自分が進む先に女の子が一人いたの。その子が移動するスピードはあたしより遅くて、しばらくして追いついたのね。そしたら、その子があたしの方を向いて、 『全てを君に託すことにしたよ。君ならうまくできると思うよ。よろしくね』 って言ったの。あたしは意味がわかんなくて、とりあえず『うん』って言って、もう少しまともな答えをしようと考えたの。でも、気が付いたら、その子はあたしよりずっと後ろの方にいた。 彼女は一回うなずくと、全身から、白い、まばゆい光を発したの。その光はあたしの方に向かってきて、次の瞬間、あたしは光に包まれた。その光が自分の中に入ってくる感覚が気持ち悪くて、そこで目を覚ましたの。 「その女の子が佐々木じゃないか、ってことか。」 「そう。今でもその夢は鮮明に記憶に残ってるの。去年あんたとここに来たのが夢じゃないって解ったから、あたしが覚えてる夢で一番はっきりしてるものに昇格したわ。もしかして夢じゃなかったのかしら。」 「その可能性もあると思うぞ。」 口ではそう言ったが、俺はその記憶が夢であるとは微塵も思っていなかった。ハルヒもそうなのだろうが。そうなると、ハルヒの能力がどこから来たのか、説明がつくことになる。そしてその能力がどういう形態をしているのかもな。 「いや、俺は夢じゃないと確信している」 何故だかは解らない。ただ、自分の心中に反することを言ったことに心が疼いたのだ。もう、こいつに対して隠すべきことはほとんどないのだ。俺の部屋のベッドの下のようなものを除いてはな。いや、それすらも隠すべきではないのかもしれない。って、なに考えてんだ、俺。 6 「あんたがジョンだって可能性は、入学したときからずっと考えてたのに、いざ本当となると結構混乱するのね。てことは、SOS団の名前の由来も知ってるわけよね。」 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく、だろ?」 「そう。でも、本当はもう一つ意味をかけていたの。SOSそのままの意味よ。この団なら、色のないあたしの日常を救助してくれるんじゃないかってね。」 「・・・」 俺は、しばらくの間、言葉を返せなかった。毎日が限りなく退屈に感じられる日常とは、どのような心地がするものなのだろうか。今、こいつは幸せなのだろうか。いや、何かあるからこそここに俺を連れてきたんだ。それは何だろうか。それはずっと俺が感じているモヤモヤと同じなのかもしれない。 「あたし、バカよね。」 「いきなり何を言い出すんだ」 「だって、去年この世界から帰ってきたあとの喫茶店で、あんた真相を言ってくれたじゃない」 ああ、軽く一蹴された挙句、財布持ってないからと奢らされたあの喫茶店での会話か。 「しょうがねえよ。あんな話を突然されて信じるような奴がいたとしたら、そいつはオレオレ詐欺に何回も引っかかるだろうよ」 「自分で望んでたくせして、目の前の真実をむざむざ見逃すとはね。でも、今なら例えあんたがどんな突飛な話をしても、信じる自信があるわ。」 俺が感じているモヤモヤは、今までにない速さで輪郭を形成しつつあった。 「そんな事を言うなら、俺もカマドウマ並みの阿呆だな。」 「コンピ研の部長の家に出たっていうあれ?」 「はは、それに違いない。真実をブチ撒けたのに、まだお前に話せていない大事なことが2つもあるからな。」 「一つ目。俺もかつてはお前が望んでいたような世界を望んでいたんだ。だが、俺はそれを早々に諦めてしまった。だから、高校に入ってお前を見たとき、正直お前の生き方が羨ましくなった。かつて望んでいたような世界が現実になって、やれやれと不平をたらしながらも、俺はこの日常が楽しくてしょうがないんだ。」 「心配しなくても、そんなこと解ってるわよ。あんたを見てれば解るの。」 しばしの沈黙。 なぜここで沈黙かって?モヤモヤが完全にはっきりした俺にとって、二つ目の『大事なこと』を告げるのには勇気が要ったからだ。ハルヒはハルヒで何かをしようかしまいか迷っている表情をしている。 俺が少ししかない勇気をかき集めて口を開こうとしたまさにそのとき、ハルヒが言葉を発した。 「そんなこと、言うなら、あたしにも言うべきことがあるわ。・・・あたしね、あん――」 「おっと、俺の二つ目がまだ言い終わってないぜ。 ハルヒ、好きだ。」 「ちょっとキョン!先に言わないでよ!あたしだって、・・・あんたのことが、・・・好きなんだから・・・」 こんなに赤くなったお互いを見たことはないと断言できる。だが、そんなことは、今の俺たちには関係ないね。 「キョン。」 「ハルヒ。」 ごく自然と、真っ赤なハルヒの顔が接近してくる。ハルヒが接近してきたか、俺が接近したかなんて、もう、俺にはわからない。 俺たちは、唇を重ね合わせた。 さまざまな思念が、奔流となって、俺の頭の中を駆け抜ける。やがて、その全ての思いが、一点へと収束していく。すなわち、こいつ、涼宮ハルヒを愛しむ想いへと。こいつとずっと一緒にいたい、そう思った。 永遠とも思える時間のあと、不意に俺は重力の消失を感じた。そういえば今いた場所は閉鎖空間だったか。 ってことは、次に気が付くのは、自分の部屋の、自分のベッドの上か。 この予想は間違っていなかった。予想通り、次の瞬間にいた場所は、俺の部屋の、俺のベッドの上だったが、二つの点で、前回閉鎖空間から戻ってきたときと異なっていた。 つまり、一つ目は俺「たち」が制服を着たままだったことで、もう一つは今の表現からお解りの通り、俺とハルヒは抱き合い、唇を合わせたままだった。 さて、ここから翌朝までは、記述を差し控えさせてもらおうか。 7 翌朝、俺がハルヒを家族に見つからないように外に出すのに、負傷した女スパイを導く某ダンボール使いの潜入のエキスパート並みの細心の注意と行動を要したのは、言うまでもないだろう。 鞄を取りにハルヒの家に立ち寄った後から学校に到着するまで、俺らが手を繋いだままで登校したせいか、「俺とハルヒがくっついた」という噂は、ハルヒと朝比奈さんがバニーガールの衣装でビラ配りしたあの伝説の事件の噂よりも早く広まった。授業中も俺のほうを向いてはニヤニヤしていた谷口は、 「キョンにはお似合いだと前から思ってたぜ。てかお前にはあいつ以外に合う奴がいねえだろ。」 などと言っていた。つーかお前も早く彼女つくれよ。 その日の古泉との会話である。 「僕にとって、一番興味深かったのは、涼宮さんが言っていたという佐々木さんの話ですね。」 「あれは俺も俺なりに考えてみたんだが、佐々木がハルヒにあの能力を渡したってことなのか?」 「簡単に言えば、そうなるでしょう」 「だが、それなら橘京子たちの組織はもっと昔からあってもいいようなもんだが」 「そこですよ。ちょっと推測してみましょう。佐々木さんのような人が、自分のイライラを制御する組織を必要とするでしょうか?答えはノーです。僕たちの『機関』も、彼女たちの組織も両方とも涼宮さんが創り出したと考えるのが妥当でしょう。」 「よく意味がわからん」 「涼宮さんがあの能力を得たときのことを考えてみましょう。突然能力を得たと知った、彼女の無意識下の理性は、どう考えるでしょうか?ここで二つのパターンが予想されます。一つは、自分を制御してくれる存在があれば大丈夫だろうという、どちらかという楽観論的な思考です。そしてもう一つの思考パターンは、自分がこの能力を持つことは危険だ、だから元の持ち主に戻すべきだという、若干悲観論的な考え方です。」 「ってことは、」 「僕たち『機関』は、涼宮さんの前者の理性を反映し、橘さんの組織は後者の理性を反映しているのですよ。だから、涼宮さんの理性がせめぎ合っていたように、僕たちも敵対していたのでしょう。」 古泉は続けて、 「ですが、これからは、橘さんのほうの組織は衰退していくでしょう。涼宮さんの中で、自分は『能力』を持っているべきだ、という考えが強くなるからです。彼女が能力を持っていたからこそ、僕たちはここに一同に会することができたのですから」 「まだ解らんことがある」 「どうぞ」 「なぜ佐々木は『能力』をハルヒに渡したんだ?」 「これも僕の推論ですが、佐々木さんは世界が自分の思い通りになって欲しくなかったんでしょう。そして、4年前、何かで世界が自分の思うように変わってしまうのを見てしまう。彼女はこの能力は自分には必要ない、もっとこの能力にふさわしい人のものであるべきだと考えたのでしょう。」 「それがハルヒか。」 「そうです。涼宮さんは不可思議な現象を誰よりも望んでいました。だから彼女に『能力』が授けられたのでしょう。ともかく、そのように考えた佐々木さんは新しい世界を創造し、そこに1日前の時点の全てをそっくりそのまま移動した、このように考えると辻褄が合います。」 「ハルヒが言ってた移動する感覚はこのことか。待てよ、すると、未来人が4年前より前に遡れないのも・・・」 「その通り。世界が存在しないのなら、遡りようがありませんからね。」 その後のことを、少し話そう。 それからも、ハルヒが事の真相を知っていること、俺とハルヒが一緒にいる時間が増えたことをを除いては、以前と同じSOS団的な日々が続いた。相変わらず違う時空の未来人やら天蓋領域やらとドタバタも続いたが、今度は本当に5人全員で切り抜けてきた。夏休みの合宿第2弾やら、映画やら、バンドやら、相変わらずである。 以前、長門や古泉や朝比奈さんが心配していた「ハルヒが真相を知ることによる弊害」は起こらずに済んだ。その理由を一番端的に表しているのは、ハルヒの 「こんなすごいこと、他の人に知らせたらもったいないじゃないの。これはあたしたちSOS団だけの秘密なんだからね!」 という科白だろう。 ――時は変わって7年後、今日は7月7日、いわずと知れた七夕デーだ。 今日は、7年前と同じく、SOS団パーティーが開催される。 今年の七夕パーティーは、SOS団のパーティーでは史上2番目に壮大なパーティーになるはずである。 ここまで言ってしまえば分かる人は解ると思うが、史上最大は去年の今日である。 スペックの異様さを除けばほぼ普通の人間になっている長門や、以前のように偽りではなく、屈託なく笑うようになった古泉とはしょっちゅう会っているが、朝比奈さんには去年の今日、久しぶりに会った。記憶そのままの朝比奈さん(大)の姿で。彼女によると、自分がこのパーティーに参加するのは「既定事項」であったそうな。 以前は七夕になると、決まってブルーになっていたハルヒだが、今はそんなことは全くない。 何でかって?決まっている。 ――今日は、俺とハルヒの、結婚一周年の記念日だからだ。 P.S おっと、書き忘れたことがある。実は今日のパーティーは、ハルヒの妊娠祝いも兼ねているんだ。しかし、名前を考えるってのは、妙に気恥ずかしいな。 完
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/59.html
時期も時期だけに部室内もかなりの暑さ 「う~…あつい」 適当にパソコンをいじっていたハルヒが耐えきれず口に出す ガタッ ふと有希が椅子から立ち上がって… 「………」 ぴたっ そして、ハルヒに抱き付く 「ちょ、ちょっとなによ、この暑い時に…」ふりほどこうと身をよじるハルヒ 「……」 ぎゅっ しかし、さらに密着しようとする有希 「も~なんのつもりよ…って、暑くない…ていうかむしろ涼しい、いや冷たい?」 「…体温、普通より低いから」 普通よりというより、あきらかに低いのだが 「そうなんだ…はぁ~気持ちいい…」 いまのハルヒにはそれを気にする気は全くないらしい 「…よかった」 「あ~でも…いきなりこんなことしちゃダメよ、もしアタシが男だったら襲っちゃうわよ」 「…ハルヒ」 有希は猫のように顔をすり寄せ耳元に囁く 聞いてる最中からハルヒの顔が真っ赤になっていった 結局、さっきにも増してハルヒの体温は上昇してしまったのだった
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6032.html
Ⅴ 「‥‥‥誰、ってどういう意味かしら」 「そのまんまの意味だ。お前は誰だ。本物のハルヒはどこやった?」 そのハルヒはこちらにニヤリと笑った口下だけが見えるよう少しだけ振り返り、またもハルヒとおんなじ声色で俺へと返事をした。 「なあに、キョン。本物のハルヒ、なんて意味ありげな言葉言って。まるであたしが偽物みたいじゃない」 その通りだよ偽ハルヒめ。 「だって忘れちゃったんだから仕方ないじゃない。それとも何、そんなに大事な思い出だったのかしら?」 白々しいことを。どういう過程でこいつが全くハルヒと同じ容姿と声と性格を得たかは不明だが、本当のハルヒではないということが確かになった。となると、こいつが閉鎖空間を発生させたということか。畜生、よりによってハルヒの姿になりやがって。 「じゃあ教えてよ。もしかしたら思い出すかもしれないわ。どうやってあたし達はここから出たんだっけ? キョン、言いなさい」 誰が言うか。 「じゃああたしが本物か偽物かは分からないわね」 ウフフ、と小悪魔みたいな笑い方をした後、また偽ハルヒは窓へと視線を向け直した。後ろ姿からでも俺には分かる。きっとこいつは今、笑っているに違いない。 もうバレているのに、まだハルヒの真似をするのか。じゃあいい、とっておきの質問をしてやるよ。 「3年前の七夕、お前は何をした」 「何、って‥‥‥そう、東中のグラウンドに絵を描いたわ」 「ほう、一人でか」 「あたし一人じゃないわよ。女の人を背負った北高のお兄さんも手伝ってくれたわ」 「そいつの名前は?」 「ジョンよ。ジョン・スミス」 妙なとこまで知ってやがるな。となれば‥‥‥。 「ね? あたしは涼宮ハルヒよ」 「いやまだだ。お前、グラウンドで北高生に絵を描かせたのは覚えてるんだよな」 「絵の模様までは覚えてないわよ」 「それは別にいい。だがそこまで覚えてるんだったら分かるよな? その絵の意味を」 「‥‥‥‥意味?」 ここで偽ハルヒの言葉がとうとう詰まった。しめた。 「ハルヒが描いた絵はとある宇宙語なんだよ。お前が本物のハルヒなら、その日本語訳を絶対に知ってるはずだぞ!!」 後半怒鳴るような声でそう問いただすと、さっきまで余裕で答えていた偽ハルヒからはわたしのわの字も出なかった。ざまあみろ。これでこいつが本物のハルヒではないことが完全に証明されたぜ。 「‥‥‥フフ、そうね。確かにあたしはその言葉の意味を知らないわ。どういう形なのかもね」 そこまで言って、ようやく偽ハルヒはこちらへと振り返った。 「でもね、キョン」 「それでも、あたしが本物のハルヒよ」 「いい加減にしろ。お前がハルヒじゃないとはもう分かりきってるんだよ」 そう言う俺の言葉にも段々覇気がなくなっていた。振り返った偽ハルヒは、朝倉の顔をしていた! なんてこともなく、誰がどう見ようと涼宮ハルヒだったのだ。今の表情は俺にとってはいやぁな計画を思いついたハルヒのそれだった。 「キョン、あんたにとって‘涼宮ハルヒ’って何かしら?」 「‥‥どういう意味だ」 「あんたの言う‘涼宮ハルヒ’は、この顔をしていること? それとも声かしら? 自分勝手な性格? 身長、体重、趣味が完全一致している人物を指すの?」 偽ハルヒはそこで一旦言葉を区切り、団長と書かれた三角錐の乗った机の引き出しから腕章を取り出して 「それかこの‘団長’の腕章を身につけてる人のことを言うのかしら?」 と口にしながら腕章を右腕にはめた。 「違う」 「どう違うのかしら」 「お前はハルヒじゃない! だからいくらハルヒの真似をしたところでハルヒじゃない!!」 「ウフ、いいわよ。あたしはハルヒじゃない。あんただけにはそう認めてもいいわ」 だが偽ハルヒは勝ち誇った顔を浮かべ 「だけど他の人にはどうかしら?」 「何‥‥?」 「谷口や国木田、担任の岡部や鶴屋さんの目にはいつもどおりの‘涼宮ハルヒ’が写っているんじゃない? あんたがそうだったようにね」 「‥‥‥‥」 確かに反論は出来ない。 「だとしたら俺がお前が涼宮ハルヒじゃないと言いふらしてやるよ」 「どうやってかしら。あんたと‘涼宮ハルヒ’‥‥‥あと宇宙人の有希しか知らない事実でなんとかしようっていうの。笑えるわよ、キョン。頭おかしいと疑われるのがオチよ」 長門を宇宙人だと知ってるのか? いや、そもそも長門に攻撃不許可にしたのがこの偽ハルヒだったんだから、何もおかしくはないか。しかしあの見た目がハルヒの口から「宇宙人の有希」なんて言葉が出てくると妙な気分になるぜ。 「どうして長門が宇宙人だと知ってる」 「有希だけじゃないわよ。みくるちゃんは未来人で、古泉君は超能力者でしょ」 まさかこいつが新たな異世界人なのか? と一瞬疑問がよぎったが、その考えはものの見事に粉砕された。 「何故知ってるのか? って顔をしてるわね。ウフ、キョンは忘れちゃったのかしら?」 俺が忘れてる? 「そうよ。だって、長門有希が宇宙人っていうのも、朝比奈みくるが未来人というのも、古泉一樹が超能力者であることも‥‥‥あんたが教えてくれたんじゃない」 なんだと。 「俺はお前なんかに教えたつもりは‥‥‥」 「5月29日、日曜日」 偽ハルヒは俺の顔を見ず天井見上げてそう声を上げ、団長席の回りをゆっくりとした足取りで歩み始めた。なんだなんだ。 「今日はSOS団の活動の日。みくるちゃんと有希と古泉君は用事があるみたいで、よりによってキョンと二人きりだったけど仕方ないから同行してあげた。喫茶店でキョンにどうやって奢らせようか考えていたら、あいつ、妙なことを話し始めたわ。有希が宇宙人でみくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者なんて言い始めたの。一生懸命考えたジョークなんだろうけど、全然面白くなかったわ。選んできた人材が偶然みんな宇宙人未来人超能力者なわけないじゃない。全く、聞いてて呆れたわ」 床の上に落ちた壊れたパソコンの液晶画面をさらにバリバリと砕くように足を乗せて、ハルヒは机の回りを一周し終えた。また横目だけで俺の顔を伺う。 「それに、」 「もし有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人で、古泉君が超能力者なら、あんたは何なのよ」 「‥‥‥‥」 それは逆に俺が聞きたいぐらいだ。まさか俺が異世界人でした、とかないよな。 「‥‥‥キョンは、何なのかしら?」 「さあな」 だんだんと麻酔銃を向けている腕も疲れてきたが、まだ下ろすわけにはいかない。聞かなきゃいけないことがまだ山ほどあるからな。とりあえず一つずつ疑問を解消させよう。 「今のはハルヒの日記か」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒは黙っていたが、間違いない。 黒魔術の練習か、小さい頃から親に強いられてきたのか、あるいは日々の出来事に不思議が紛れこんでいるかもしれないと思ったのかどうかは知らないが、ハルヒはこまめにも日記を書いているようだ。どうりで妙に深いところまで知っているわけだ。ジョン・スミスとかさ。だがさすがのハルヒも、運動上に描いた絵のイラストや例の閉鎖空間での出来事を書かなかった。そりゃそうだ。俺が日記をつけていたとしても、あの出来事だけは絶対に書かない。 しかし日記を自由自在に見れるということは、本物のハルヒと完全に入れ替わったということだ。となるとハルヒはどこへ? 「‥‥お前は一体何者なんだ。何故ハルヒの姿をしている?」 「あたしが‘涼宮ハルヒ’だからよ」 くそ、話が進まん。多少の強引さが必要か。 「いい加減にしろ。正直に全てを話せ。じゃないと撃つぞ」 人を脅したことのない俺が声にたっぷりと威厳をこめてそう言ったものの、何せ腕がプルプルして重心が定まらない上に、何故か人差し指に力が入らないせいで様になっていない。人に向けてエアーガンの類のものを撃ったことがないのも関係があるが、姿がハルヒということが何より大きいだろう。 「ウフフ、言葉が足りなかったかもね」 麻酔銃を五百円くらいで売っているおもちゃを見るような目でハルヒは見つめた。もうちょっと怖がれよ。 「あたしは‘涼宮ハルヒ’。でもただの‘涼宮ハルヒ’じゃないわ」 「‘涼宮ハルヒ’のみが持っている全宇宙の中で一つだけ存在する能力。それを自在に使えるのがあたしよ」 ハルヒがゆっくりと右手を上げ人差し指を立てた後、勢いよくそれを振りおろした。 一体何やって――――――ぬわっ!? ダイナマイト爆弾が爆発したような音を立て、校舎が破壊されるのと俺が体制を崩したのはほぼ同時だった。窓の外を見れば、神人が元コンピ研があった部室を上から下まで腕を振り下ろし二分割にしていた。散々だなコンピ研も。 「無様な格好してるわね、キョン」 俺を見下ろしながら一人笑う偽ハルヒの笑顔は、やはりハルヒの笑顔とシンクロ率400%だった。 なんとか立ち上がり、また麻酔銃を向ける。 「‥‥‥何をした」 「命令しただけよ」 命令? 「神人にか?」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはそれぐらいの答えは言わなくても分かるでしょう? と教師がよくするような笑みをした。窓の外では相変わらず古泉が頑張っているのがチラリと見える。 しかしどういうことだ。神人ってのは、いわばハルヒのストレスの塊なんだろ。それを自由自在に操るとは一体‥‥‥。 「‘涼宮ハルヒ’本人から生まれた存在」 パソコンが踏み潰されているのをお構いなしに偽ハルヒはこちらに向き直し、ニヤッとグレたハルヒのような笑い方をした。 「だからあたしは本物の‘涼宮ハルヒ’なのよ」 涼宮ハルヒから生まれた存在? 何ワケの分からな――――― ‥‥ 「‥‥‥‥‥!」 その時、俺の中の記憶が走馬灯のごとくフラッシュバックした。ハルヒが楽しそうにしおりを作っているところから俺が告白しようとした時までの期間がわずか二秒で頭を駆け巡る感覚。その中に、ハルヒが妙なことを言っていたことがあったはずだ。そう、あれはハルヒが睡眠不足で苦しみながらも寝ずに放課後まで過ごしたあの日だ。俺が朝登校し、珍しくも心配してやった後、あいつは何て言った? ハルヒは俺に何を伝えようとしていた? 『ねぇ‥‥‥キョン。‥‥前に、自分がいかにちっぽけな存在かを話したじゃない?人ってさ、自分の中にさらに他の自分がいるとしたら、人の数なんていうのは、本当はもっと多いのよね‥‥‥そのたくさんある中の1つがさ‥‥‥その人物の人柄と見なされて表に出てくるのよね‥‥‥。でも、せっかく出てこれたその1人も‥‥本当は世界と比べたらちっぽけな存在で‥‥‥』 ‥‥‥‥。 「お前、」 ハルヒは眉だけをクイッと器用上げ、俺の反応を伺った。表情は相変わらずのダークハルヒ。 「もう一つの、ハルヒの人格か」 そう言った途端だ。ハルヒは、いや偽ハルヒは、ようやくにしてニヒルな表情を取っ払い300ワットの笑みを浮かべた。SOS団を立ち上げた時のような、身体全身から表現する喜びの感覚。今、目の前にいる偽ハルヒは完全に本物のハルヒだった。 「その通りよ!」 ‥‥にしてもなんてこった。俺はてっきり、名も知らぬ異能力者が完璧にハルヒに化けたものばかりだと思っていたのに、そのハルヒ本人から生まれたとは。オリジナルでありながらも、オリジナルよりタチが悪いハルヒ。 だがそんなのは関係ない。今この世界を閉鎖空間で丸呑みしようとしているのがこいつには違いないのだから、なんとかして危機を回避しなければならん。それにいくらハルヒ自身とは言え俺にとってのフル迷惑なハルヒはあのハルヒ一人だけで、こっちは偽ハルヒに変わりない。 「あたし自身、最初は気づかなかったわ。どうしてここに生まれてきたのか。何のために存在するのか。後から分かったの。何のために、という意味は無かったけど、いつ生まれたかはね」 ‥‥‥そう。そうよ。あたしのハッピーバースデーは‘涼宮ハルヒ’が夕食を食べながらテレビを見ていたあの時間帯。自由どころか感覚も無かったけれど、意識だけはあった。そんな意識も最初の内はぼんやりにしか働いていなくて、あたしはただただ真っ暗な空間の中で‘涼宮ハルヒ’の声が反響するのを聞いているだけだった。 反響する声の中で一番多かったキーワードが「キョン」。でもこの言葉が出る度にあたし自身も口では表せない楽しさが浮きあがっていた気がするわ。結果論だけどね。 ほの暗い場所で、あたしはただただ膝を抱えて‘涼宮ハルヒ’の会話というラジオを聞くしかなかった。何もしないで一日中ぼけーっとしてるだけ。本当に意味のない存在だったわ。 「でも、ある日を境にあたし自身が変わってきた」 反響する声の中で、‘涼宮ハルヒ’がこう叫んだわ。 『SOS団主催、読者大会を開きます!』 まさにこの日の夜、あたしという存在は確立された。『人格と精神』という本に‘涼宮ハルヒ’が読み始め、あたしの意識が段々と強くなっていったのよ‥‥。 「ってことはなんだ。医学の本をハルヒが読み始めたのは、本当に偶然だったのか?」 「‘涼宮ハルヒ’は多重人格には興味を持っていたけど、特段医学関連の本を読もうとは思っていなかったようね。テレビ番組のような難しい内容を、キョンに読ましたら面白そうだなとは思っていたけどね」 ‘涼宮ハルヒ’自身はくじ引きでどの本に当たろうと良かった。偶然医学の本を引き、たまたま多重人格に関心があったから『人格と精神』を手にした。 ‘涼宮ハルヒ’が『人格と精神』を読めば読むほど、あたしには力が湧いてきた。暗闇から立ち上がって歩くことも出来たし、さらには‘涼宮ハルヒ’が寝ている時に限り身体を借りることが出来たの。その時思ったわ。 ああ、 「この本を読み続ければ、乗っ取ることが出来る」 ってね。 「‥‥‥ハルヒを睡眠不足に追い込んだのはお前か」 「さすがに本人もおかしいと思い始めたわ。起きれば机の前に座って本を読んでるんだし、疲れも全く取れてないんだから」 次第に本を読むのを止めようとした。さすがに不思議事が好きでも、これは不気味だったようね。 でもあたしはそうはさせなかった。ここまで来て、中途半端な意識だけを持って終わりたくはなかった。だから、無理に読ましたわ。キョンならもう分かるんじゃない? 「‥‥‥深層心理を利用したのか」 よく出来ました。あれだけ哲学の本を読んでれば、いくらキョンでも分かるわよね。 ‘涼宮ハルヒ’の意識が及ばないところであたしはひたすら本を読むように命令していた。拒否も出来ずもがきながら本を読む‘涼宮ハルヒ’を見て、さすがにあたしも罰が悪かったわ。でも仕方ないわよね? あたしが生まれた以上、あたしだって身体を動かしたいわよ。 そんなことを無理矢理させていた日の夜、口では言い表せない何かがあたしの中に流れこんできたわ。あたしは戸惑ったし、対処の仕方も分からなかったからなすがままにそれを蓄えたわ。後から分かったけど、これが‘涼宮ハルヒ’の持つ情報爆発能力だったのよね。ありったけのストレスで作られたパワーは、あたしをより確実なものへと成長させた‥‥‥。 「閉鎖空間が発生しなかったのはお前が内側で貯めてからか」 「そうよ」 寝てようが起きてようが本を読まされる。あたしにとって、‘涼宮ハルヒ’を乗っ取るのも時間の問題だったわけよ。 でも、思いもよらない行動を彼女はとったわ。 寝ずに読み始めたのよ。本を自らね。読破する気だったのかしら。読み終わればなんとかなるとでも思っていたのかも。 でもあたし自身、‘涼宮ハルヒ’がこれを読み終わった後どうなるか分からなかった。彼女の多重人格の興味は消えて、別の本に手をつけるかも。そしたらあたしの力はきっと消えていく。あともう少しで身体があたしのものになるのに。 「焦ったわよ。でも、あたしはギリギリ逃げ切った」 「‥‥‥‥‥」 「さすがの‘涼宮ハルヒ’も仲間の前で安心しちゃったのかしら。とうとう疲れに疲れを溜めて、寝たのよ。そしてそんな弱り切った‘涼宮ハルヒ’を多大なるストレスで力を得ていたあたしが乗っ取るのはいとも容易かった‥‥‥‥」 「‥‥‥つまり、お前は、」 ‥‥ハルヒの奴、一人でそんな悩みを抱えてたのか。古泉の野郎、一体何してんだ。いつも通りなわけないじゃないか。朝比奈さんも長門も、どうしてあのハルヒに異常があると察しなかったんだ。なんですぐに集まって対策を練らなかった。 ‥‥‥‥‥、分かってる。一番悪いのは古泉でも、、朝比奈さんでも、長門でもない。一番身近にいながら、様子がおかしいと思いながらも何も出来なかった無力な俺だ。俺の知らないところで皆手を尽くしていたのかもしれない。でも俺は何も出来なかった。しなかった。せいぜい声をかけたぐらいだ。過去の俺を殴り倒してやりたいぜ。最悪だ、本当に。 なんたって、 こいつは、 「俺たちの目の前でハルヒと入れ替わった、ってことか‥‥‥‥!!!」 肯定の返事はなかったが、顔見れば分かる。朝比奈さんが感じた時空震とやらはおそらくこいつが入れ替わった時起こったものだろう。そういやあの日は長門の様子もほんの少しだけ違ったし、何よりもハルヒの様子がおかしかった。あいつの機嫌が良くて俺に礼まで言ったのは、テンションが最高にハイってやつになっていたからか。ハルヒじゃなく、こいつの。 「あたしはいつも‘涼宮ハルヒ’の目と声を通していたからね‥‥誰にどう接して、どういう仕草を取ればいいかも分かっていたわ」 そうかい。完全に騙されてた。お前の演技も主演女優並だな 。 「ということは、今度はハルヒが内側にいるのか?」 「そのことなんだけどねー」 偽ハルヒは喋りすぎて肩でもこったのか、首をゆっくりと回した。右回り、左回りとした後に俺を見て、その後掃除箱の方へ見やる。 「あたし家に帰ったあと、思ったのよ。もしかしたら‘涼宮ハルヒ’が身体を取り返してくるかも、って」 「だから思ったわ。あたしだけの身体があればいいのに、って。そしたら‥‥‥」 偽ハルヒは高々と右手を上げ、指をパチンと鳴らした。一体何をしたのか。俺の左側にある掃除箱がガタンッと音を立てた。中のほうきが倒れたにしては音がでかすぎる。ビクッと身体を仰け反らすと、掃除箱のドアがひとりでに開き‥‥ 「‥‥‥‥‥ハ、」 見知った人物が重力に導かれるまま倒れこんできた。 「ハルヒ!!!」 何故掃除箱から、などという疑問をよそにハルヒは前のめりに床に激突しようとしていた。危ない! 麻酔銃を投げ捨てハルヒをギリギリで抱きかかえる。だが顔から打たなくて良かったと安堵する前に、俺はハルヒの軽さに驚いた。いくら女とはいえ軽すぎだろ。 急いでハルヒを仰向けにし、顔色を確かめる。思っていたほど頬がガリガリと言うわけではなく、少しだけ俺は安堵した。 「ハルヒ。おいハルヒ! 起きろ!」 「‥‥‥‥‥」 肌は健康色。だがその割には反応に生気を感じられない。冗談は止めろマジで。 「‥‥あたしがあたし自身の身体を手に入れた時、不意に分かったの」 「ああ、あたしには‘願望を実現させるチカラ’があるんだ‥‥ってね」 「それで結果ハルヒは二人になったわけか。まるで分身の術だな」 もちろん分身はお前の方だがな、という皮肉を言ってやろうと思ったが、偽ハルヒが手も触れずに俺の麻酔銃を手にした瞬間にそれは喉の奥へと引っ込んだ。強力なサイクロン掃除機を使ったみたいに手の平に吸い込まれやがった。唯一の武器が‥‥‥。 「あたしはこの能力が、一体どこまで出来るのか知りたくなったわ。で、思いついたワケ。キョン、分かるかしら?」 そんなもん俺が知るわけないだろ。 「じゃあ教えてあげるわね! あんたがあたしに告白してくるかどうかを試したのよ!」 ‥‥‥‥なっ‥、 「なんでだ‥‥?」 何故あえてそれにしたんだ。 「んー、なんでかしら。強いて言うならあんたに興味があったから」 俺に興味? 「だって、あんただけ何もないじゃない。宇宙人でも、未来人でも、超能力者でもないし、あたしみたいな万物の創造みたいな能力もない。だけどあんたはSOS団にいて、‘涼宮ハルヒ’と仲が良いわ。日記見てたら分かるもの。‘涼宮ハルヒ’があんたにどれだけ信頼を置いてるのかが」 映画の時にも古泉に言われたな。ハルヒは俺だけは絶対に味方だと信じてる、ってことを。 「だがそれと、お前に俺が告白するのになんの関係がある?」 「‘涼宮ハルヒ’が気に入ってたものは、あたしも欲しくなるに決まってるじゃない」 物扱いかよ。俺は非売品だぞ。 「自分から言うんじゃ、‘涼宮ハルヒ’らしくないからね。だからあんたから言うように、状況を作ったの!」 わざわざご苦労なこった。だから哲学書十冊も読ませようとしたのか。 「放課後あたしみたいな子と二人きり。あとはあたしが願ってさえいればすぐに告白してくるだろうと思ったの」 でもしなかった、と。 「そうよ。あんたがチキンだから告白をしてこなかったわ。まだまだムードが足りないからかしらとその時は思うことにしといたわ」 悪かったなチキンで。 「だから、あたしはあたしとキョンの間に噂が広がればいいのにと願ったの。そしたらキョンもその気になるかなってね」 ‥‥‥残念だったな、俺がチキンの上に超がつくような人間で。 「そうよ! それでもあんたはあたしに告白しなかった。さすがに少しは意識してたみたいだけど」 フフン、と得意気に笑う偽ハルヒの顔を見ていると、俺が抱えているハルヒが偽物であそこで立ってる偽ハルヒが本物に思えてくる。姿が似てるってのも厄介だな。 「あともう一押しって感じだった。だから、あたしは古泉君達に賭けたの」 「それは長門や朝比奈さんを含めてという意味か?」 「そうよ。あんたがあたしに告白せざるをえない状況をあの三人なら作れると思ったの」 『真相が違ったのです』 ‥‥‥‥。 なるほどね。 「だがお前の考えも当てが外れたな。朝比奈さんは途中で気づいたぞ。お前が能力を使えるようになったことをな」 「みくるちゃんがあんたに手紙を渡したのを見た時、まさかとは思ったわ」 見てたのかお前。 「あんたとみくるちゃんが話してた内容まで聞いたわ。みくるちゃんがそのことに気づいちゃうとは思わなかったけれど、それをキョンに話そうとまでするなんてね‥‥‥ひたすら祈ったわ。誰かが邪魔するようにって」 「誰かって、誰‥‥‥」 ‥‥! 谷口か。 「あたしが作り出した‘谷口’だけどね。あんたとみくるちゃんの会話を邪魔するためだけに生まれた」 ‥‥‥こいつの話で大体の真相が見えてきた。つまりこいつは色々なことに能力を使いまくってたというわけか。 見事に遮ることに成功した偽ハルヒは、これ以上邪魔が出ない内に強行手段に出た。それが今日の放課後だ。俺が偽ハルヒに告白までしそうになったことは全て偽ハルヒの計算通りであり、まんまと俺は餌に釣られて釣針を口に含んでしまった魚よろしく、事を進めてしまった。俺が偽ハルヒの肩を掴み、耳を真っ赤にしながら口を開いた瞬間、偽ハルヒを勝利を確信したのだろう。俺は見ず知らずの相手に愛を伝えてしまうところだった。そう、あと少し、ゼロコンマ2秒遅かったら。遅かったらって何が? それはわかるだろう? 「長門に感謝しなくちゃな‥‥‥」 今度集まりで奢る時は、食べきれないほどのパフェを奢ってやるよ。おかわり自由だ。 「本当に‥‥本当にあと少しだった。でもあの宇宙人が邪魔をした」 「長門はSOS団の影のトップなんだよ。途中でお前が別人だと気づいたんだろう」 これまで多くのことで長門に助けられてきた。それなのにあいつは、不平不満言わずにちゃーんと見守っていてくれていたんだ。夏休みの時なんざ、人間ならとっくに死んでてもおかしくないくらいの年月を過ごしてきたんだぜ。 「でもそんなあんたたちの唯一の頼りである有希には制限をかけておいたわ。あたしに害のある行動は行わないようにね。だからこの状況は、もうどうにもならないわよ!!!」 再び耳をつんざくような破壊音が鳴り響き、校舎が振動で震えた。無意識にもハルヒに覆い被さり守ろうとしたのは、男としての性ってやつか? 「ウフフ、キョン。ゲームオーバーよ」 そうニヤリと笑いながら口にし、こちらに歩み寄ってくる。来るなよ。 「あんたがどうやってあたしだけの世界に来たかは知らないけど、あんたにこうして全部話したのも、結果が決まってるからよ」 「一つ聞きたい。この空間はお前が意図的に起こしたものか?」 麻酔銃をこちらに向け、ニコニコという笑みに変えた後 「そうよ」 とだけ偽ハルヒが言った。そんなことまで出来るとはね。 「‘涼宮ハルヒ’の内側にいた頃、自分の中に流れ込んでくるパワーを爆発させてみたくなったのよ。そしたらこんな面白い空間が出来ていたなんてね。古泉君はその処理担当かしら? 日に日にやつれていくのを見てて、とっても面白かった」 姿形はハルヒでも、やはりお前は根本からハルヒと異なるな。カマドウマ以下だ。 「そんな口、聞いていいのかしら?」 「‥‥‥‥っ」 偽ハルヒは俺の眉間に麻酔銃を向け、引き金に指をかけていた。麻酔銃なのだから死ぬことはないだろうが、それでもやはり怖いという感情は隠せない。やばい、冷や汗出てきた。 「キョンなんて、何も出来ない無力な人間じゃない。どう? いっそのこと、あたしと同じような能力を持って一緒にここの空間で生きていく? 半分は上げるわよ」 まるで魔王みたいな取引をしてきやがった。なんだっけ。昔したゲームでは、確かここで『はい』の選択肢を選ぶとゲームオーバーになるんだっけか。 「もし、俺がうなずいたならどうする?」 虚を突かれた表情に一瞬変わったが、すぐに聖母マリアのような微笑みに戻し、 「あんたとなら、二人で生きていくのも悪くないわね」 とだけ言った。 お前、今もの凄く恥ずかしいセリフ吐いたんだぞ。そのこと分かってるのか。 しかし偽ハルヒは恥ずかしがる様子をちっとも見せず、相変わらず麻酔銃を向けたままだった。 「本当に、うなずいたら俺のことを助けてくれるんだな?」 「ちゃんと肯定したらの話よ?」 そうかい。助けてくれるんだな。 本物のハルヒを静かに床に寝かせた後、言ってやった。 「だが断る」 思いっきり偽ハルヒの右手を叩きつけ、麻酔銃を弾け飛ばした。偽ハルヒが不意を突かれている内に、西部劇のワンシーンのように掃除箱の側に落ちた麻酔銃をすぐに拾い上げる。俺が銃口を向ければ、はたかれた右手を見つめる偽ハルヒがそこにいた。なんだこれ。半端ない罪悪感がこみ上げてくる。 「‥‥‥‥悪いな」 本当にそう思ってるから言葉にした。 「だが、俺はまだ本当の世界に未練があるんだ」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはただただ右手だけを見ていた。俺が叩いたその手の甲は赤くなっている。 「‥‥‥‥お前に恨みはない。だが、ハルヒのためにもここで眠ってもらう」 俺が引き金を引こうとした時だ。偽ハルヒはボソボソと何か言った。 「‥‥‥‥‥‥」 「え、なん‥‥‥」 俺が言い終わらない内に偽ハルヒはこちらに飛び込み、あろうことか今度は俺の右手を思いっきり蹴飛ばした。よくそんなに足が上がるな、と感心する前に鋭い痛みが右手に走る。 「いっ‥‥‥!!」 たい、という前にまたもや高速で蹴りが腹に入れられる。言葉より先に嗚咽が出た。 「あぐぁっ!!!」 スレンダーな足のくせして破壊力満点の蹴りだ。サッカー選手だってもう少し躊躇するぞ。 俺は偽ハルヒにキックで吹っ飛ばされ、壁に背中を強打した。またその反動でひざを床につけてしまい、腹を抱えながら恐る恐る上を見上げれば、無情にも俺を見下ろす偽ハルヒがそこにはいた。視線の先が俺から、横たわっている本物ハルヒへと移る。 「そんなにこっちの‘ハルヒ’が大事かしら?」 いかん。矛先がハルヒの方に向いている。 おそらく注意をこちらに向けないと、この偽ハルヒはハルヒに攻撃するだろう。女の子を攻撃するなんて男のすることするじゃねえ! っ叫ぼうとしたが、困ったね、こいつ女だった。 というより論点はそこじゃない。こいつがハルヒに攻撃して、本物が起きちまったらどう説明しても後々とりつかない事態になることは明確だ。なんとかしなければ。 「‥‥ふ、はは。なんだよ今の蹴り。それがお前のマックスか?」 腹を猛烈に庇っている男の吐くセリフじゃないな。 「何よ、キョン。もっと蹴られたいのかしら? マゾ?」 でもこっちの偽ハルヒも単純で良かった。 俺はずりずりと壁伝いになんとか立ち上がり、一方で腹を押さえながらもう一方の片手は偽ハルヒへと差し出した。 「‘本物’のハルヒならこんなもんじゃないぞ。一度だけ思いっきり蹴られたことがあるが、あの時はホント、この世に医者がいなかったら死んでたかもしれん痛みだった。にしてお前の蹴りはどうだ。不慣れな格好で蹴ったにしては威力は高かったが、‘本物’なら同じ格好で俺をまた瀕死状態まで追い込むぞ。背丈姿形性格一致で黄色いカチューシャと腕章つければ‘本物’のハルヒになったつもりか? だとしたらお笑いだぜ」 もちろんデタラメだ。だがそこまで言ったところで、偽ハルヒが強烈な回し蹴りを繰り出して、俺はなんとか右手でガードした。相変わらず超ド級クラスの痛みが右手から体全体へと響き渡り、音だけ聞いていれば折れたかもしれんと思えるようなものだった。蹴りの達人かお前は。 「ぐぅっ!!」 「‥‥‥‥どうかしら?」 どうって何がだよ。気持ちいいです、って言えばいいのか? 悪いが言えない。マジで痛い。 だがやめてくださいとは言えん。俺が実はマゾで、本当は気持ちいいのを体験しているからではない。 「‥‥‥むちゃくちゃ痛いさ。でも所詮はそんなもん。痛い程度だ。入院までしない」 逆に蹴りで入院した奴を見てみたい気もするが。 「‥‥‥‘涼宮ハルヒ’はあんたに随分手荒だったようね。日記にも書いてないというのは反省の色も見られないわ。なんでそこまでして‘涼宮ハルヒ’を守るの?」 守る、か。嘘がバレてるなこりゃ。じゃなきゃこんな言葉出ねーよ。そりゃバレるだろう。うん。一応こいつも偽ハルヒだしな。 「‥‥‥お前の知らない世界での話さ。日記にも綴られていないとある空間の出来事で、俺はハルヒと共にそこを脱出した。その時気づいたのさ。出会って二ヶ月だったがな、人間いつどこでそんな感情が芽生えるか分からん。たまたま俺はそれが早かっただけさ」 ハルヒが起きてないことをひたすら祈る。 「その脱出以来、決めた。例えどんなことがあっても、それこそ重傷ものの蹴りを喰らっても、ハルヒと共にまたここに来た時には、絶対に二人で元の世界に戻るってな」 「‥‥‥‥‥」 神人の青光が強くなってきている。とうとう校舎全破壊する気か? だが、その前に。 「‥‥返せよ」 俺は精一杯怒気を効かせて、偽ハルヒに言ってやった。 「その腕章は、」 蹴りを喰らっていない左手を偽ハルヒへと差し出す。 「ハルヒのものだ」 偽ハルヒは右腕にはめてある腕章を見つめた後、不意にニヤッと笑った。 「まだ分からないの?」 顔に集中している間に右足に痛みが走る。ローキックがかまされていた。 痛みに耐えかねて俺は床へと倒れ、ひたすら歯を食いしばりながら右足に手をやった。そして偽ハルヒはゆっくりと上履きのつま先を俺の顎へとくっつけ、蹴ろうと思えば蹴れるのよと言ったような顔をした。 「あたしが本物の涼宮ハルヒよ」 顎にあった足を引き、まるで顎下にサッカーボールがあるかのように思いっきり蹴りを俺に喰らわせようとする。さすがにこれ受けたら脳震盪を起こすに違いない。北高初の蹴りで入院した高校生第一号になってしまう! 偽ハルヒの足が消えるような速さでこちらに向かってきた時、俺は現実逃避するがごとく目を閉じた。 痛みを覚悟した瞬間、また何かが壊れる音を聞いた。とうとう俺の顎が砕けたか? だがそんなことはなかった。物理的破壊の音は確かに聞こえたが、それでも俺に痛みはなかった。何がどうなってるのか。まぶたが暗闇しか写さないので、おそるおそる開けてみると‥‥‥‥ 「‥‥また邪魔するのね」 「‥‥‥‥‥」 いつぞやの光景がフラッシュバックする。あの時もそう。もう駄目だ、と思った時に突然俺の前に現れた。そして必死に守ってくれた。そんな彼女はSOS団の最後の切り札と言ってもいい。 長門は偽ハルヒのつま先を片手で受け止めていた。 「‥‥‥‥‥‥」 ふと隣を見れば壁に穴が開いている。隣のコンピ研の部屋から力ずくで入ってきたらしい。しかしよくここに渡ってこれたな。コンピ研の部屋はもう床も天井もないんだぜ。 「あんたはあたしに攻撃にできないはずよ」 「攻撃は許可が下りていない。しかし彼を守る許可は取り消されていない」 偽ハルヒの足の筋肉はどうなっているのか、ひとっ飛びし一瞬にして団長机前まで下がる。あいつ本当は朝倉の親戚かなんかじゃないのか。 「涼宮ハルヒを連れて遠くへ」 「いや、しかし、」 「大丈夫」 大丈夫、か。今日で二度目だなその言葉。 長門の登場と言葉に安堵する刹那、文芸部の天井が砕け散り、瓦礫が俺たちを襲った。 「あぶねっ!」 我が身を横たわっているハルヒの上に被せ、瓦礫による痛みを覚悟する。‥‥、二秒経過。痛くない。 「早く‥‥」 長門がバリアみたいなものを作り上げ、瓦礫から俺たちの身を守っていた。何から何まですまない。 「やるわね有希。じゃあこれはどうかしら」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒがまた何かする気だ。これ以上俺たちがいれば長門に今以上の負担をかけることになる。ハルヒを抱き上げて俺はドアノブを握った。よもや映画以外でハルヒをお姫様だっこすることになるとはな‥‥‥。 「‥‥‥って、」 ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりを試みる。だがドアはまるで意志を持ったかのように開かない。どういうことだよ‥‥カギはかかってないぞ! 「‥‥‥‥!」 人間には聞き取れない速さの言葉で長門が何かを呟くのが聞こえた。嫌な予感しかしない。 「吹っ飛びなさい!」 長門の半球の形をしているバリアがなければ死んでいた。それぐらい強烈な死が空から降ってきたのだ。 荒々しい轟音を鳴り響かせコンピ研を完膚なきまでに粉砕した、見覚えのある拳が今まさに俺たちを叩きつけようとしていたのだ。障壁がなんとかそれを喰い止め、俺たち三人は事なきを得た。しかしバリアを通じて伝わる衝撃は並々ならぬもので、それは長門の膝がガクンと一段階下がるほどのものでもあった。 「早く‥‥‥‥」 無機質な声なんだが、俺にはわかる。かなり切迫詰まっている長門の声だ。神人のパンチは朝倉の比ではないらしい。 急がなければ。しかしドアは相変わらずボンドを隙間に流し込んだみたいには開かなかった。 舌打ちをしながら一度思い切り蹴ってみる。音だけは威勢がいいが、破れる気配が全くない。 神人は圧力をかけ続けており、またさらに長門の膝がガクンと下がった。それに順じてバリアも小さくなる。長門は何も言わなかったが、相当やばそうだ。なんとかここを突破しなければ長門がもたない。だがドアが以前として開く様子がゼロだ。 焦りだけが心内で広がっていく。 「くそ‥‥‥開けよ!!」 中段蹴りを何度も何度も喰らわせるが、それがどうしたと言わんばかりにドアは立ちふさがる。長門の膝がとうとう床についた。 「キョンったら、無様ね」 偽ハルヒの余裕綽々な声が聞こえた。今どんな格好しているかは分からないが、おそらく団長机の上に座って事の成り行きでもせせら笑いながら傍観しているんだろう。悪趣味め。 「‥‥‥‥‥っ」 まさか長門が来てからよりピンチになろうだなんて誰が思った? 誰も思いやしなかったさ。少なくとも俺は、長門がやられかけてるとこなんて信じられなかったからな。タイマンなら絶対に負けないだろう。だが俺たちを守りながらほとんどの技術が規制されれば話が別だ。条件は長門側がずっと悪くなる。 それでも長門は何とかしようとしている。俺は‥‥俺は、無力だ。‥‥‥ ‥‥ ‥‥‥嘆いている暇はない。ドアが無理なら一つだけ方法がある。バリアを抜け、長門がぶち破ってきた穴から出るのだ。出ても一階の床に落ちるだけだ。ちゃんと足からつけば死なないだろう。 覚悟を決め、ハルヒを抱えたままバリアの外へと飛び出そうとした。 バリアを抜けたまさにその時だ。意固地に開かなかったそのドアが爆発音と吹き飛ばされた。一体なんだと戸惑っている内に、小さな赤い球体が長門の首横を電光石火のスピードで通り偽ハルヒへと飛んでいく。偽ハルヒはそれを目を見張るような瞬発力で避け、床へと突っ伏した。やっぱり団長机に座ってたか。 「こっちです!」 グワシャーンと窓ガラスを盛大に粉々にする音が聞こえたが、それでも奴の声は聞こえた。ナイスタイミングだな。 バリアをくぐり抜けてドアへと走り寄る。案の定そこにはSOS団副団長こと、超能力者古泉がいた。 「朝比奈みくるから事情を聞きました。急いで逃げてください」 「朝比奈さんからだと?」 「詳しい話は彼女から。‥‥長門さん!」 古泉は長門そばまで詰め寄り、対神人に躍り出た。赤い球体を何個か神人の拳にぶつけ、ダメージを与える。宇宙人のバリアにはびくともしなかった神人の手は、まるで腫れ物に触ったかのように手を引っ込めていった。やっぱり古泉の能力は閉鎖空間内では強いんだな。 「キョン君、こっちです!」 ドアの向こう側に朝比奈さんが待機していた。俺は長門と古泉を後にして、ようやく廊下へと出た。 「ハルヒのことを?」 「はい。長門さんが、情報規制が一部緩和されたと言われて話を聞きました」 緩和ね‥‥。偽ハルヒが俺に正体を打ち明けたからか? 「キョン君、行きましょう」 ボロボロに崩れてきている校舎の中を、俺はハルヒを抱えて朝比奈さんの後についていった。 ハルヒがいくら軽いと言っても、お米十キログラム四個分くらいはあるだろう。おまけに体のあちこちが偽ハルヒのせいで痛む。そんなだから、俺は朝比奈さんの同じペースで逃げることが出来るというものだ。むしろ朝比奈さんより遅い。 だがハルヒを出来る限りあの偽ハルヒから遠ざけなければ。もはや朝倉同様、こちらを殺す気にかかってきているのだ。そんな奴のそばにハルヒを置いておけるか。 「キョン君、こっちです」 いたるところが崩れボロボロの校舎の中で朝比奈さんの柔らかいボイスは見事なまでに対になっていた。ちょこちょこと道を先回りして朝比奈さんはナビゲートをしてくれる。何を根拠に道を選んでいるのかは不明だが、とりあえず偽ハルヒからは離れているだろう。それでいい。 「ハルヒを安全な場所に置いた後、俺はもう一度あいつのところへ戻ります。朝比奈さんはハルヒと一緒に‥‥‥」 「ダメです! ケガがひどいんですから、無理をしちゃいけません」 無理というより無謀に近い。行ったところで何の役にも立たないだろう。というより邪魔だろうな。 だがもう一度だけあのハルヒの方に合わなきゃならない気がした。長門と古泉相手に、あの偽ハルヒが大人しく座談会開いて平和解決しようなんて言うとは思えないのだ。 どうにかこうにか、俺と朝比奈さんは東館の端っこまでやってこれた。とりあえず一安心だ。ここならば偽ハルヒも何も出来ない。 「では、朝比奈さん‥‥」 「‥‥‥‥‥」 朝比奈さんは目をショボショボさせてうつむいた。そんな顔されたら行きたくなくなる。ここらで一言 「必ず戻ってきます」 と言うのもいいんだが、なにやらそれが良くない方向へと事を運びそうなので控えておいた。 「無理しちゃ‥‥駄目ですからね」 俺は黙ってうなずき、身体に鞭打って部屋を出た。もう一頑張りしなきゃな。 ‥‥‥‥しかし部屋を出た直後、急遽朝比奈さんの下へ身を翻した。お別れのキスを忘れてたよ、とかそんな御伽噺チックじゃない。窓から差し込む光に、嫌と言うほど見覚えがあるからだ。 「あれ、キョン君‥‥‥?」 「部屋を出てください!!」 ハルヒの両脇を乱暴に掴み、ズルズルと引き摺るようにして部屋の外へと運ぶ。朝比奈さんも続いて部屋を出て、窓の外と俺の態度を見てようやく事態を理解したらしい。池に落とされる時の朝比奈さんでさえ、こんな青ざめた顔色してなかったぞ。色的な意味で。 グワシャッ、と3階と粉砕される音が耳に届いた。まずいまずいまずい。 朝比奈さんは 「きゃああああああ」 といかにもお化け屋敷を駆け巡る少女のような悲鳴を上げ走って行ったが、俺はハルヒを運ばなければならない。もう腕の上に任せる時間はない。悪いがこのまま引き摺るぞ。 一階の天井にとうとうヒビが行き渡り、そして瓦礫の山と共に神人の手の平が降ってきた。懸命に引き摺ったおかげか神人の手とは距離のある位置には俺たちは来ることが出来ていた。だが一度どこか崩れると、連鎖反応のように崩れてしまう天井の破片が俺たちを襲ってくる。ひたすらハルヒに当たらないことを祈りながら全力で逃げる。 なんとか逃げ切り瓦礫の山の一部とならずに済んだ俺は、ハルヒを抱え上げ次はどこに行こうかと思惑した。まさか神人がもう一体出てくるとはな。西館に逃げるのが良いのだが、しかしそれではあっちの方の神人に‥‥。 「キョン君っ!!」 先に行ってしまわれていた朝比奈さんが小走りでこちらで戻ってきていた。無事で良かった。 だが朝比奈さんの背後を見る限り、無事とはほど通そうな状況になっていることに俺は気づいてしまった。 なんと、瓦礫が崩れこちらにまで被害を及ぼそうとしているではないか。ハルヒを抱えて、ちょうど今俺のいる位置と朝比奈さんのいる位置の中間地点にある階段の方へ走り、朝比奈さんにもこちらへ来るよう呼びかけた。岩なだれのように降ってくる天井を見ながら早く早くと俺は心の中で朝比奈さんを急かした。遅いなりにも―――あれが朝比奈さんの全速なんだろう―――ギリギリのとこで角を曲がり切ることに成功し、三者ともなんとか今は無事だということが確認出来た。階段だってもうほとんど瓦礫に成り代わっていたおかげで足元が不安定極まりないのだが、ここにいればひとまず瓦礫に怯えなくても済むというのがありがたい。上を見上げれば見えるは夜空のムコウ。 「‥‥う、運動場に‥‥‥」 もうどこにいようと危険地帯だと思いますよ。 「そ‥ぅ、ですよね‥‥‥」 息は荒いし涙は出るしで、おそらく未来にいた頃よりもよっぽど恐ろしい体験をしているのだろう。周りを見れば神人だらけだしな。 「‥‥‥あのハルヒの方へ戻りましょう」 「でも‥‥‥」 その先の言葉が朝比奈さんの口からは出なかった。俺が同じ立場でも出ない。 こうなったらもう偽ハルヒを羽交い締めしてでも動きを拘束して、偽ハルヒから能力を取り返すしかない。二人より三人。三人より四人だ。 神人に気づかれないよう‥‥‥というよりあいつら目が無いのだが、俺たちの位置分かって攻撃しているのか‥‥‥? まあさておき、再び旧館に戻ることにした。長門と古泉の二人が相手ならば、いくら反則みたいな能力でも多少は苦戦を強いられるだろう。というよりやられておいてくれないと困る。 瓦礫の道はやはり進みにくく、俺はハルヒをおんぶに変更し先を行き始めたのだが、‥‥‥やめときゃ良かった。背負ってから後悔したものだ。集中出来ん。 神人はと言えば東館の校舎をミニチュアハウスをいじる三歳児のごとく乱暴に壊しており、しばらくはこちらに来る様子がない。それはいいことだ。俺たちは無事に旧館へと着いた。 長門達はおそらく二階にいるはずだ。だからハルヒは文芸部の部室真下の部屋に置いておこう。俺としても、これ以上背負っていると罪悪感が膨れ上がりそうだったしな。 「朝比奈さんはここにいてもらえますか?」 「‥‥‥はい」 不安そうな返事をした。ただでさえ落ち着かない心境なのに、ハルヒのことを守らなければならない立場となってしまったからな。俺としても本当は二人で行きたい。しかしハルヒをここに置いてきぼりとなると‥‥‥‥にしても、さっきまで耳をつんざくような音を体験したせいか、こちらがえらい静かに思える。荒々しい戦闘を繰り広げているのではないのか? 背中に冷たいものを感じた。これは何か始まる予兆にしか思えない。 俺は朝比奈さんに背を向け、開けっ放しにしておいたドアへと進んでいった。がすぐに足を止めた。 さっきは行く途中で取り止めとなったが、今度は行く前に取り止めとなった。何故かって? ご丁寧にもあちらから来てくれたからな。 ドアがひとりでに閉まったかと思えば、誰かが暗闇の中からこちらに歩いてくる。長門なら忍者のように音もなく歩くはずだし、古泉ならばまず声をかけてくるだろう。となれば一人しかいない。 「お前か」 背後の窓からまた盛大に青い閃光が広がり、そいつの姿を映し出した。やっぱりね。 「長門や古泉をどうした」 「さあ? 帰ったんじゃない?」 まるで放課後の会話みたいな口調で偽ハルヒは答えた。朝比奈さんは 「あわわわわわ」 と小声だが、驚いているようだった。偽ハルヒとしてこのハルヒを見るのは初めてのようだ。 「有希が言ってたわ。そっちの涼宮ハルヒがいれば、あたしから能力を奪ってこの閉鎖空間を消すことが出来るって」 「そうかい。そりゃ良かった」 でも偽ハルヒから能力を取って本物のハルヒにかえすなんてこと、長門以外出来ないぞ。そもそも長門もそんなこと出来るのかどうか知らないんだが、今は信じるしかない。でもハルヒの能力を一時的にしろ場所移動が出来るということは、長門ならその力を応用して自分の思い通りに世界を造り変え‥‥‥何を馬鹿なこと言ってんだ。長門がそんなことするわけないだろ。 ともかく、長門達が来るまで時間稼ぎをしなければ。神人をそばで待機させているだけなのを見ると、すぐに攻撃をしてくるなんてのはなさそうだ。 ハルヒとその傍に寄り添っている朝比奈さんを庇うように、一歩前に進み出る。ということは偽ハルヒに少し近づいたことになるのだが、そのハルヒにはこっちのハルヒみたいに服に汚れやほこりが被さっているなんてことはなく、本当に長門と古泉を相手にしていたのか疑問せざるをえないほどいつも通りのハルヒの格好だった。髪に手を絡め、なびかせるように手を払う。ああ、ハルヒもよくそんな仕草してたな。 「‥‥‥あんた達に希望はないわよ」 そして第一声にこれだ。そんなのまだ分からないだろ。 「分かるわよ。あと数分もすれば、完全に世界は入れ替わる。こっちが本物になってあっちが偽物になるのよ。そしたら神人はこちらから消え、あちらの世界で破壊し尽くすからよ。古泉君も能力を失うし、有希もあたしを見守ることになるわ」 「どうしてこっちの世界にこだわる。お前は本当の世界を壊して、それで何になるっていうんだ。これ以上思い通りになる世界が欲しいっていうのかよ」 「‥‥‥‥」 買ってもらったばかりのおもちゃを壊されてしまったかのような顔をした後、偽ハルヒはボソッと、朝比奈さんまでには届かない声量で何かを言った。 「‥‥本物がいいの」 「‥‥‥‥」 そんな切なげに言われたら、どう返せばいいんだ。というよりもお前、自分で「本物」を連呼してたじゃねーか。 「あたしは本物だったわ。あんたに正体がばれる前まではね」 「‥‥‥俺が否定したからか?」 「そうよ」 そうなのかよ。 「だからあたしは本物となる。現実と閉鎖空間が入れ替われば、あたしが確実な本物となるはずよ。‘涼宮ハルヒ’はあたしとなって、’涼宮ハルヒ`が涼宮ハルヒとなるの」 「ワケ分からないこと言うな。ハルヒはハルヒでお前はお前だ。違うか?」 「違うわ。キョンは何も分かってないわよ」 さっぱり理解出来ない俺をよそに、朝比奈さんの方は 「涼宮さん‥‥」 とポツリと呟いていた。何が何だか‥‥‥。 「どっちにしろ、もう時間がない。お前にはハルヒに能力を返してもらうぞ」 「‥‥‥フン。キョンに何が出来るって言うのよ。有希がいなくちゃ何も出来ないじゃない。頼りきりのあんたがあたしに勝てるの?」 ‥‥‥‥。 「ほら、反論出来ないでしょ? 大人しくあたし側についたら?」 偽ハルヒの言うとおり、俺は反論出来なかった。長門がいなければ朝倉にナイフでメッタ刺しに殺されていただろう。古泉がいなければ閉鎖空間なんぞ知らないで焦りまくった挙げ句神人に踏み潰されてたかもしれん。朝比奈さんがいなければ、ハルヒの能力が目覚めるきっかけとなったあの時代までワープすることも出来ず、今居るSOS団の面子とも顔を合わせることすらなかったに違いない。三者三様、俺に協力をしてくれていたのだ。長門のおかげで面白い小説が読める。古泉のおかげで心置きなくゲームに勝つことが出来る。朝比奈さんのおかげでお茶の旨さを知った。 他の皆が俺を支援している理由なんて探せば山ほどある。どの一部がかけても俺は一人で道を進めないだろう。破天荒な団長にツッコミが出来ないというもんだ。 お前の言うとおり、俺はたいした能力を持たない無力な弱っちい人間だよ。 ‥‥‥でも俺は無敵だ。 窓ガラスが割れる音がして、二人分の着地音が聞こえた。朝比奈さんは「ひっ」と驚いたようだが、俺は振り向かずとも誰かは分かっていたから特段びびることもなかった。ゲームが弱い超能力者と万能宇宙人以外誰がいる? 「解析に時間がかかった」 長門の無機質な声が淡々とそう告げた。振り向いてやると二人とも埃まみれだ。切り傷や刺し傷がなさそうで良かったぜ。 「何が無敵よ」 偽ハルヒが嘲笑交えてそう言った。 「結局誰かの頼りになるんじゃない」 「そうだよ」 おくびれもせず開きなおる。俺もタチが悪くなったもんだ。 「俺には残念だが、宇宙人と互角に渡り合うほどの力はない。巨人と戦うダビデのような勇気も、タイムトラベル出来るほどの知恵もない。だがどうだ。そんな何も持たない俺の周りに、そんなすげー奴らが集まってるんだぜ。一人いりゃ充分なくらいなのに、三人揃っているんだぞ? そんな皆に支えられて、そして何よりも、」 一呼吸おき、目を閉じて寝そべっているハルヒの方を見る。 「ハルヒまでいるんだ。これが無敵とは言えずにいられるか?」 言えないだろう? 「‥‥‥なによ、皆そっちの涼宮ハルヒばかり気にして‥‥‥」 頼んでおいた仕事に失敗した部下を怒鳴りつける前のような上司ばりの不愉快さを露わにして、偽ハルヒは叫んだ。 「一体そっちの何がいいのよ!」 「有希、あんたにとって観察対象は涼宮ハルヒではなく、進化の可能性を秘めている能力を持った者じゃないの? 古泉君。神と崇める対象は一般の女子高生ではなく、世界を創造する能力を持ったものでしょ? みくるちゃん。時空のズレを発生させたそもそもの原因は、涼宮ハルヒの持つ情報爆発の能力じゃないの?」 三人とも押し黙り、何も答えれずにいた。宇宙人の派や機関、未来人の組織の中には、こっちの涼宮ハルヒを観察対象とするよう言っている奴もいるかもしれない。 「そっちのハルヒは忘れて、あたしの世界に来なさいよ。何もかも望み通りにしてあげる。有希が望むなら人間に、古泉君が望むなら超能力を消してもいいわ。みくるちゃんも、この時代に留まらせてあげる。だからあたしの世界に来なさい」 ‥‥三人は相変わらず沈黙をし、ただただ偽ハルヒを見つめていた。そりゃそうだ。あっち側に行く奴がいたら殴ってたところだ。 「何でよ‥‥‥」 歯車が歪み、思い通りに動かないおもちゃにイラつく子供のように叫んだ。 「どうしてなのよ!」 崩れ散る校舎でさえ響く偽ハルヒの声。外にいる神人も段々と透明になり始めてきていた。 ‥‥‥どうして、か。 そりゃな、お前。勘違いしてるぜ。 長門も古泉も朝比奈さんも、宇宙人、超能力者、未来人であってのSOS団じゃない。SOS団内の宇宙人、超能力者、未来人なんだ。そこの順序が大事なんだよ。 「そっちのハルヒにはもう何も残ってないじゃない‥‥‥」 偽ハルヒの目は、少しだけだが潤んでいた。 「どうしてあんた達は、そのハルヒを守るのよ!?」 ‥‥‥‥‥‥、いつだってそうだ。 ハルヒが何か思いつけば、誰もがそれに従ってしまう。古泉はただニコニコと笑ってるだけだし、長門は本を読んで我関せずだ。朝比奈さんはオロオロして、賛成が二で棄権が二だ。ここで誰が何と言おうとハルヒの催しは通ってしまい、いらぬ苦労を俺たちが抱え込んでしまう。そんな未来が待っているのを分かっていながらも、このまま好き勝手させては今後ハルヒはもっとトンでもないことをしでかすかもしれない危険性があるので、一応反論しておくのだ。そう、主に俺が。 今もそうだ。偽物とはいえハルヒはハルヒ。そんなハルヒの言葉に反応出来るのは、この三人ではないのだ。だから、言ってやった。 「団長を守るのに、理由がいるか?」 ハルヒ。目を開けて、周りをよく見てみな。 お前があんなに会いたがっていた宇宙人と未来人、超能力者がお前のために集まってきてくれたぜ。どうしてか分かるか? みんなお前のことが好きだからだよ。 「‥‥‥ふ、フフフ‥‥‥キョンったら‥‥」 偽ハルヒは人を小馬鹿にするような笑い、そして天井を見上げた。真上はSOS団の部屋だ。 「あんた達がどうしてもそっちのハルヒにつくって言うのなら、もう構わないわ。でも世界が入れ変わるまで一分弱‥‥‥今更何しても無駄よ」 な、残り一分弱だと。もうそんだけしかないのかよ!? 偽ハルヒがこちらに背を向け、教室から出ていこうとする。逃すものか。 だが俺が追いかけようとした瞬間に、真上の天井が亀裂が入った。まさか、と思う寸前で誰かに襟首を捕まれ引っ張られた。尻からこけ、 「いってーな!」 と思わず条件反射で文句を言ってしまったが、崩れさる天井の騒音でその声はかき消された。襟首を引っぱったのは長門か。じゃあ理不尽な文句が聞こえてるなこりゃ。Ⅴ 安全だと思われていたSOS団の床はとうとう抜け、俺たちと偽ハルヒの間に瓦礫の山を作ってしまった。上では神人が完全に校舎を破壊しており、その瓦礫の破片も容赦なく降り注いでくる。どうすんだおい。 「古泉!」 古泉の赤い球に期待するしかない。あれで急いでこの瓦礫の山をぶっ飛ばし道を作らないと、時間が! 「ダメです‥‥!」 右手を見てみれば、ピンポン球のよあな小さな赤い球しか浮いていない。もっとでかいの作れないのか。 「能力が‥‥失われつつあります。こちらが現実に変わろうとしているんです!」 そんな‥‥じゃあマジでヤバいじゃないか。どうすんだよ!? そんな非力な三人をよそに、長門は瓦礫にかけより、なんと瓦礫の破片を一つずつどかし始めた。まるでマシュマロでも掴んでるように素早く脇へと捨てていくが、しかしいくら長門とはいえこのスピードでは遅すぎる。もう30秒もないはずだ。その間にここをくぐり抜けて偽ハルヒを捕まえ、能力をハルヒに返すなんて無茶だ。不可能としか言いようがない。 「‥‥‥‥‥‥」 ‥‥‥何、諦めてんだ俺。 ザクザクとモグラのように瓦礫の山を掘り進んでいく長門を見て、そう思った。俺たちが守らなきゃならない世界を、どうして俺たちがこうも簡単に諦めて、代わりに宇宙人が頑張って守ろうとしているんだ。本当に頑張らなきゃならないのは俺たちの方じゃないか。 ‥‥‥諦めるものか。まだ、時間がある。もしないとしても、そう、時間を作ればいいのだ。 「朝比奈さん!!」 ハルヒのそばで涙目でオロオロしている朝比奈さんのもとへ駆け寄った。長門が時間内に掘り進めることを今は信じるしかない。 「五分前です!!」 「え、あ、ちょっと待っ‥‥」 待てない。時間がないんだ。 朝比奈さんの右手首をギュッと握った。まずい。窓から見える神人の姿が消えようとしている。 「朝比奈さん!!」 「申請がと、通りました。キョン君、目を閉じてくださ――――」 言われる前に目を閉じた。そしてすぐさまジェットコースターに乗ったかのような重力無視の感覚が四方八方から襲う。耐えろ、俺。耐えるんだ。 ‥‥‥キョンなら分かってくれると思ってた。有希や古泉くん、みくるちゃんが分かってくれなくてもキョンだけは分かってくれると思っていた。何故? これは私自身が‘涼宮ハルヒ’だから? それとも、私は私という、‘涼宮ハルヒ’に見目姿似ただけの別個体だからかしら? 分からない。‥‥分からない。 分かるのはもう彼らにはなすすべがなく、あたしは創造し終わった世界をどうしていくかを考えなければならないということだけ。やることは膨大にあるわ。とりあえずはコンビニね。コンビニ創ってご飯買って腹ごしらえしないと。そしてそのあとに校舎の創り直し。こんな校舎じゃ皆びっくりするわ。あ、あっちの世界にいるみんなをこっちに創らなきゃ。そして違和感ないようにいつも通りの日常を過ごしていた記憶を創りあげないと。そして、そして‥‥‥‥。 ‥‥‥‥‥‥、 考えれば考えるほど空しくなってきた。あたしは何がしたかったの。どうしてあたしは生まれたの。あたしは‥‥私は‥‥‥ この世界で何を望むの‥‥? ‥‥‥何発式なのかは分からない。だが撃つチャンスは一度しかない。時間的にも、相手がハルヒということも含めてだ。だから俺は、教室の扉を偽ハルヒが閉めた瞬間、すぐさま目の前に踊り出た。 「っ‥‥‥キ、キョン!?」 『ためらわずに』 カチッと、引き金を引いた音がした。銃弾が出たわけでも、針が出たわけでもなかった。本当に出たかどうかさえも分からない。だが目の前のハルヒの様子を見る限り何かは当たったようだ。 「‥‥‥っ!」 おでこを抑え、扉にもたれかかり、どんどん力が抜けていくかのように膝が床についた。ガクリと左手の手のひらを床につき、苦しそうに俺を見上げた。ズキンと胸が痛くなる。 偽ハルヒは‥‥‥ハルヒは、泣いていた。 「‥‥‥悪いな、ハルヒ」 朝比奈さんは急いでもう一人のハルヒの方に近づき、うなだれるハルヒを揺さぶっていた。死にそうな目に合わされた相手だと言うのに、朝比奈さんは一緒に泣いていた。ハルヒはわずかに頬に涙が流れる程度だったが、朝比奈さんはわんわんと泣いている。ハルヒのこんな表情見てしまったら、もし一人だったなら俺だって朝比奈さんのように泣いていたかもしれない。目頭が熱い。 「‥‥‥やっと、」 最後の力を振り絞ったかのような声だった。ハルヒのまぶたはもう閉じようとされている。‥‥まるで、‥‥永遠の眠りにつくかのように。 「‥‥‥ハルヒって、呼んでくれた‥‥」 ‥‥‥物理的な力を失い、廊下に完全にハルヒは倒れた。麻酔銃の効果だ。眠ったらしい。 眠っただけなのだ。何も死んだわけじゃない。死んだんじゃないんだ。 ‥‥‥なのに。 こんなにも涙が出るのはなんでなんだ。 ハルヒと呼んでやっただけで、どうしてそんなに満足そうな顔出来るんだ。お前は‥‥これから、いなくなってしまうのに。 ハルヒ、どうしてお前は‥‥‥‥‥‥。 バンッと誰かが教室のドアを押し倒してくる。とっさにハルヒを引きずり、下敷きになるのだけは免れさせた。誰だ一体‥‥‥と、そんなことするのは、今この状況には一人しかいないか。 長門だ。 「涼宮ハルヒに能力を返す時間はない。したがって一度私が世界を改変する」 「ま、待て長門。急にそんなこ‥‥」 そんな俺の言葉を全く聞きもせず長門はハルヒに手をかざした。能力なんてそう簡単に取ったり取られたりするもんなのか? 俺がハルヒの持つ能力とやらをどういう形をしているのか確認しようとした途端、朝比奈さんの切迫詰まった声が聞こえた。 「強力な時空震がきます。キョン君、目を閉じて!」 ほんの少しだけでいい。あのハルヒが保持していたものが見たい。 だが長門の手の周りがぼんやりとした瞬間、とてもじゃないが目を開けてはいられなかった。頭がグラリグラリと重力を完全に無視し引っ張られ、鋭い痛みがあちこちに走る。気持ち悪くなってきた。頭を両手で押さえ、今自分がどんな体制でどこにいるのかさえも見当もつかないまま俺はひたすら歯を食いしばった。 まずい‥‥‥ 意識が‥‥ ‥‥‥‥。 『‥‥‥キョン』 →涼宮ハルヒの分身 エピローグへ
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/61.html
涼宮ハルヒの憂鬱Ⅰ(2006年放送版第02話、構成第01話・DVD版第02話/2009年放送版・時系列第01話) スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 原作収録巻 第1巻:長編『涼宮ハルヒの憂鬱』よりプロローグから第2章の66Pまで。61ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第1巻』に収録。 紹介 放送順では第2話、時系列では第1話。ここから全ての話が始まるが、原作に登場し、後になると気付く重要な伏線とアニメで解決する伏線が登場するのもこの話。 OPは冒険でしょでしょ?で、番組全体のスタッフが表示。EDは2006年放送版1話でスタッフクレジットがスクロールでダンスの画面も縮小だったが、この話からフル画面・固定に。 この回は監督演出回、キャラクターデザイン総作画監督が作画監督を担当、原画マンも各話の演出家や作画監督が多く参加しており、相当力を入れていることが伺われる。 この回の作画クオリティは2006年放送版全14話中最高クオリティとも言われている(放送終了当時のログより)。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『女学生ねこマン』。(DVD第02巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの憂鬱』第1巻に収録): ハルヒ:次回、涼宮ハルヒの憂鬱第2話! キョン:違う!!次回、涼宮ハルヒの憂鬱第3話『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。少しは人の話、聞きなさい!!お楽しみに。 DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。見て。 放送版とDVD版との違い 放送では1話の次回予告にあった生徒手帳を眺めるシーンやキョン、谷口、国木田と話すシーン・カットがいくつか追加されている。(東中の校庭落書き事件など) パロディ・小ネタ ハルヒが一つの萌え要素として持ち出したのは、雑誌コンプティークと雑誌コンプエース。(石原監督によるとプロデューサーからの推薦だとか) 中学時代のハルヒをデートに誘って5分で断られたのは本人は違うと言っているが、谷口と見られている。(担当声優の白石稔は新らっきー☆ちゃんねる第12回のクイズコーナーで認めている。)デートに誘った場所のモデルは神戸市のハーバーランドのモザイクガーデンとのこと。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 2段目 谷口:白石稔 国木田:松元恵 朝倉涼子:桑谷夏子 岡部先生:柳沢栄治 スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 動画検査:中野恵美 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:石田奈央美 制作マネージャー:富井涼子 原画 北之原孝将 高橋博行 米田光良 浦田芳憲 坂本一也 西屋太志 紫藤晃由 大藤佐恵子 堀口悠紀子 高雄統子 山田尚子 小松麻美 松尾祐輔 動画 中峰ちとせ 黒田久美 栗田智代 大川由美 仕上げ 宮田佳奈 宇野静香 川合靖美 相沢朝子 背景 鵜ノ口穣二 細川直生 篠原睦雄 袈裟丸絵美 加藤夏美 丸川智子 川内淑子 松浦真治 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年4月9日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年4月9日25時30分-26時00分 tvk:2006年4月10日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年4月10日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年4月10日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年4月11日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年4月11日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年4月12日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年4月12日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年4月15日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年4月15日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月2日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月2日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月2日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年4月3日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月3日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月4日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月5日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月6日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月7日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月7日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月7日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月14日27時25分-27時55分 (1,2話連続放送) Youtube:2009年4月15日22時00分-2009年4月22日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年10月18日25時50分-26時20分 DVDチャプター 使用サントラ 0 00~1 37 『いつもの風景』サントラ02収録 1 37~1 55 SE 1 56~2 30 『激烈で華麗なる日々』サントラ05収録 2 30~4 00 OP 4 01~4 40 『ザ・ミステリアス』サントラ02収録 4 40~4 52 SE 4 53~6 35『何かがおかしい』サントラ02収録 6 36~7 11 SE 7 12~8 43『コミカルハッスル』サントラ06収録 8 44~10 46 SE 10 47~12 03『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 12 04~13 36 SE 13 37~15 20『うんざりだ』サントラ03収録 15 21~15 27 SE 15 28~16 07『ザ・強引』サントラ05収録 16 08~17 16 SE 17 17~18 44『好調好調』サントラ03収録 18 45~19 45 SE 19 46~20 55『悲劇のヒロイン』サントラ03収録 20 56~21 07 SE 21 08~22 18『おいおい』サントラ02収録 22 19~22 52 SE 22 53~23 36『SOS団始動!』サントラ05収録 23 37~24 40 ED 24 41~24 57『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1798.html
谷口「なぁ、キョン。涼宮と何があったんだ?」 国木田「何かふたりの間に見えない壁が見えるんだけど」 キョン「さらりと矛盾した事を言うな国木田。 端的に言えば・・・SOS団は解散、俺はハルヒに、もう口も聞かんだろうな」 谷口「は!?お前とハルヒって付き合ってたんじゃねぇの!?」 キョン「ちょwwwそんなわけねーだろバーローwwwwwwww あんな奴となんて死んでも付き合いたくねーよwwwwwwwwww」 谷口「そ、そうだよな…」 キョン「でも、あいつけっこう良い体してるしな。一回くらいヤってから捨てれば良かったかwwwww」 国木田「それ、まだ出来るんじゃない?」 谷口「…どういうことだよ国木田」 国木田「だって、涼宮さんは明らかにまだキョンに未練タラタラだよ? キョンが涼宮さんに声かければ、1発ヤルくらいなんでもないと思うんだけど・・・」 谷口「ちょw何でお前まだ涼宮がキョンに気があるって分かるんだよwwwwww」 国木田「バーローwww俺のツンデレスキーとしての経験値舐めんなってのwwww 俺の所持エロゲーの8割はツンデレ登場してるぜ?wwっうぇっうぇwwww」 キョン「そうだな・・・やるか。谷口、国木田、お前らも来るか?」 谷口・国木田「さすがキョンさん!そこに痺れる憧れるぅ!」 キョン「ただ、何だ。俺は、和姦物よりもレイプ物の方が好きだからな。 こうしよう、ちょっと二人とも耳貸せ。ごにょごにょごにょ……」 ハルヒ「キョン…人気のない夜の校舎なんかに呼びだして…まさか……」 キョン「来たか」 ハルヒ「キョン!?一体こんな所で何の用!?つまんない事だったらタダじゃおかないわよ!」 キョン「つまんないことじゃねぇよ。少なくとも俺達にとってはな…」 ハルヒ「達?」 キョン「谷口、国木田。出てこいよ」 ハルヒ「っ!?」 すばやくハルヒを抑える谷口と国木田。 ハルヒ「ちょっ…ちょっと!離しなさいよ!キョン!これは何のつもり!?」 キョン「は?お前も分かってんだろ。」 ハルヒ「………そういうこと、だったんだ。これじゃ、これじゃあたし、馬鹿みたいじゃない…っ!」 谷口「うおっ!暴れんじゃねぇてめー!」 キョン「面倒だ、縛っとくか」 国木田「さすがキョンは迅速に鬼畜な判断を下してくれる」 縛り上げられ、地面に転がされたハルヒ。既に抵抗する気も無くなったらしい。 その瞳に浮かぶ感情は、俺には読み取る事など出来るはずもなかった。 キョンが近づいてくる。私が、今から数分前まで好きだった男だ。 キョン「一番槍は俺が貰うわ。いいだろ?」 谷口「もちろん」 国木田「後で4Pもやるよね?」 キョン「おう。よっ……と」 パンツを下ろされた。キョンも、自らの―――を出す。 私は、キョンと初めて会った日の事を思い出す。 入学式の日。初めて自分の座席に座った日。そして私の前に座った男。キョン。 それが最初の出会い。正直言って、このときの事は全く覚えていない。 ただ、数日後。彼が私に話かけてきた事は、一応覚えている。でもその時はまだ、 他のつまらないクラスメイトと同じとしか考えていなかった。 彼をちゃんと認知し始めたのは、私の髪型の法則に気づいたとき。多分そこ。 そして、彼を部活に誘った日。それから、SOS団を結成し――― ―――ああ。私は、いつから彼に惹かれ始めていたのだろうか。 今となっては分からない。ただ私に分かる事は、今、私はキョンを好きだということだけ――― ハルヒ「っ痛――!」 キョン「く、きついな…やっぱ濡らしてないからか…」 国木田「だが、それがいい(ニヤ)」 キョン「さすが国木田はよく分かってる」 ハルヒ「ギ……!っつ、あ、ああああああぁっ!!!!」 痛い。痛い。いたい。 痛いのは体だけじゃない。痛いのは心。好きな人に犯されているという、ここの状況。 ハルヒ「う……う、うううううぅっっ………!!あ、あああああああああ…………!!!」 国木田「こいつ、泣いてやがる。そんなに痛かったのかね? へ、普段気が強い奴の泣き顔ってのもそそるもんだな。」 どうして。どうして。どうして。 どうして、こんなことになってしまったのだろう。 色んなことをした。 みくるちゃんを誘って、 古泉君を誘って、 有希から文芸部室を借りて、 SOS団を作った。 コンピ研からパソコンを奪ったりもした。 街の不思議探し、何ていうのもしたっけ。 あはは、キョンと二人きりになろうとして、くじ引きで二組に分かれたりもしたっけ。 あの時は、結局キョンと一緒にはなれなくて、キョンはみくるちゃんと有希と一緒に… デート、して…あはは、あの時は妬いたなあ。有希ちゃんの時なんかは、キョンったらすっごい遅刻してきたし… ……本当に。 どうして。どうして。どうして……… 涙が溢れる。 キョン「ん・・・そろそろ出るな」 谷口「何だ、意外と早いんだな」 キョン「俺は連発式なんだよ。1発までは早いが連射が効く」 国木田「マジカwww何そのニュータイフwwwwww」 キョン「んっ……!」 キョンが、私の膣に××を出しているのを感じる。 私が何度か彼を想って自慰をした時の事を思い出す。 こんなはずじゃなかった。私と彼の初めては、こんなものじゃなくて、もっと、もっと… 愛していた。わたしは、彼を愛していた。いや、今も愛しているのかもしれない。 いまのわたしには、それすらも分からない。 ただ、今までの彼との思い出がよみがえる。 ハルヒ「キョン…好き……」 キョン「……?は、ははっ! こいつ、犯されてるのにまだこんなこと言ってやがる! ついに頭イカレたか!?ま、最初っからイカれてたけどな!はっははは!!」 谷口「う、うおおお!何か俺燃えてきたぜキョン!」 国木田「(コレだ…これがツンデレの破壊力…!真価…!僕は、新しいステップを登った気がする…!) キョン「そろそろお前達も参加するか?」 谷口「俺は口だ」 国木田「じゃ、せっかくだから俺はこの汚い穴を選ぶぜ!」 谷口「っつーかいきなり4Pなんすねキョンさん」 キョン「当然だろ?」 国木田「え?じゃあお前は何を考えてたわけ?」 谷口「(こいつらレベルたけーよ・・・)」 だれかが、わたしの口に何かををつっこんでいる。 きもちわるい。 のどのおくにあたる。 はきけがする。 だれかが、わたしのおしりのあなになにかをつっこんでいる。 いたい。 すごくいたい。 きょんが、わたしのなかでうごいている。 なんなんだろう。めちゃくちゃだ。 もういやだ。 なにもかんがえられない。 かんがえたくない。 ああ――― これが、 ぜんぶ、 ゆめだったらいいのに……… 「よーし、HRはじめるぞー」 俺は出席を取り始める。 「あー、涼宮は…今日も欠席だ。」 あの時は本当に大変だった。俺の担任をしているクラスで、4人の生徒が行方不明になったのだ。 その内の一人、涼宮ハルヒはすぐに見つかった。校内にいたからだ。 ただし、暴行されたまま、放置されているのが。 犯人は分からない。同じく行方不明になった3人の男子生徒ではないかと無粋な週刊誌は騒いでいるが、 現場にはその生徒達の体液はおろか、髪の毛一本落ちていなかったのだ。 そもそも、俺は自分のクラスの生徒達を信じている。あいつらがそんな事をする訳はない。 大体、行方不明になった生徒の一人は、涼宮ハルヒと非常に親しくしていた。付き合っていたという噂もある。 そんな彼が、あんな事をする訳もない。しかしそうすると、犯人は誰なのか。 とにかく、一刻も早く犯人が捕まる事を願っている。 「………」 とある家のベッドで、一人の少女が眠っている。 その頬はこけおち、快活に校内を駆け回っていた姿は見る影もない。 彼女の精神は、ボロボロだった。 まだ見舞いに来る友達もいない。それもそうだろう、暴行された少女にかけられる言葉を 持っている者など、そういるはずもない。 ただ一人だけ、髪の長い女子生徒が、毎日花を届けに玄関先までやってくるそうだ。 「…う、うううううぅっ………!」 「……」 とある部屋に、二人の少女がいた。 一人は涙を流し、一人は、無表情――最低でも、そう見える――な少女。 「どうして、どうしてこんなことに―――」 「わからない。ただ、涼宮ハルヒが能力を喪失した時点で、起こりえた可能性」 「わたしが、わたしがもっと早くに気がついていれば、ここまでひどいことには―――」 「仕方がない。涼宮ハルヒの能力がなくなった事により、私たちの能力は大幅に低下した。 この処置が出来ただけでも運が良かったと思うべき」 「…でも、でも……… いえ、ごめんなさい。私は何もしてないのに。私が、あなたに頼んだだけなのに……」 「違う。これは、きっとわたしも望んだ事。わたしもあの光景を見たとき、 何故かこうする衝動を抑えられなかった。恐らく、エラーが溜まっていたんだと思う」 「でも、そのせいであなたは…」 「消える。しかし、私たちはあなたたちのような有機生命体とは根本的に死の概念が異なる。 …それに、わたしはこの行為ができたことに非常に満足している。」 「……」 「統合思念体が決定を下した。私は、あと5.2719秒後に消滅する。 …………ばいばい」 片方の少女が、キラキラと光の粒子になって消えていく。 それを赤い目で見つめる、もう片方の少女。 「わたしの…わたしの力が足りなかったばかりに… ごめんなさい、涼宮さん…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい………」 END ~鶴屋さんの補習授業~ はいっ!鶴屋先輩の補習授業の始まり始まり~! えーと…原因は、言わなくても分かってるにょろね? キョン君の鬼畜っ!オニっ!悪魔っ! 分かったら、さっさとあの選択肢に戻ってやり直すっ! …実は、もう一つの選択肢を選んでもBAD ENDなんだけど… それはあっちの補習授業で、詳しく教えて上げるからさっ! それじゃ、あっちの補習授業で会うにょろ!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2219.html
「涼宮ハルヒ」 SOS団員2号にして読書好きの無口系キャラでこの銀河を統括するなんたらかんたらに作られた宇宙人、という 普通に書き並べても長文になってしまうまこと複雑なプロフィールを持った少女、長門有希が 同じく詳細に語ったりするとそれだけで文庫本1冊ぐらいにはなりそうなこれまた面倒くさいプロフィールを持つ 唯我独尊、傍若無人でSOS団団長の女、涼宮ハルヒに問い掛けたのは、 SOS団員全員が部室に揃っている、特に何も起きていない平和なとある日の事である。 その言葉を聞いた時、俺は「珍しい」と思った。 なんせこいつが自分から意思表明をすることなんか殆ど無いからな。 明日は家を出る前に傘を持っていった方がいいかもしれん。 にしても何を言うつもりなんだろうな。あまりハルヒにヘタな事を言ってほしくはないのだが、 長門がこうやって自主的な意思表明を行うことなど、今ではともかく 初顔合わせの時には考えられなかったからな。邪魔をしたくはないね。 ふと前を見ると古泉の奴も会話の行方が気になっているらしく、 オセロは自分の番である筈だが手を止めている。時間稼ぎしたところで戦局は火を見るより明らかだぜ。 まあいい、俺もハルヒと長門の会話の行方が気になるところだからな。 朝比奈さんもそうであるらしく、マフラーを編みながら、ちらちらと二人の方を伺っている。 うーんこの人の行動は本当和むね。 「なに、有希?」 微笑を浮かべたハルヒが答える。普段の俺の話もそれくらいの態度で聞いてくれないものかね。 話は変わるが、ハルヒは最近前にも増して長門の事を気遣っている。 雪山で長門がぶっ倒れた時から特にだ。 無理も無い気はするけどな。長門がどっか行くかも知れないという事も言ったし。勿論その時に黙って見てる気なんてないが。 どうもハルヒは団員の事情や健康に敏感な性質である。 映画の時に調子こいたりもしたが、基本的にこいつは団員の事を無下にする事はない。 朝比奈さんに対するイタズラは、お姉さんに対する甘え、みたいなもんだろ。多分。 …ホント、俺の事も少しは気遣ってくれないもんかね? で、長門にそんなハルヒの事を言ってみたところ、長門は 「そう」 と言っただけだった。わかってるのかねあいつは。 そんな事を考えていた時に長門が口を開いた。 「前から実行したい事があった」 前から実行したい事?なんだそりゃ長門、そんなのは初耳だぞ俺は。 って別に俺に言う意味なんぞ小学生の時に作った俺の自由工作の価値ほどもないか。 「あなたを」 あなたを?う、いかん。嫌な事を思い出してしまった。 まさか「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」とか言わないだろうな。いや出方見れないかそれじゃ。 「これから“団長”と呼称したい。許可を」 ………………………今なんつった長門? 見ると、古泉は笑顔のまま目を見開いて驚くという芸当をやって見せ、 朝比奈さんは口を開けてほえーとか言ってらっしゃる。 そして言われたハルヒは、まるで洞窟に閉じ込められて必死で穴を掘ったところ光が見えたような表情と 目の前で大魔神が海を割き現れたのを見たような表情が混ざってよく分からないことになっていた。 いやこいつの場合大魔神が現れたら狂喜乱舞か? ちなみに長門が無表情であることは言うまでも無い。 「ゆ…有希?どうしたの急に?」 突然の提案にハルヒは困惑しながら長門に問い掛ける。 「返答を」 長門はその問いには答えずハルヒの返事を待った。 「えー、ああ、その、うん」 なにがうんなのだろう。ハルヒはいつもの態度からは考えられないしどろもどろなレアな顔をしている。 あーとカメラはどこにやったっけ? 「だめ?」 長門が少し、ほんの少しだけ表情に不安な色を浮かべた。 ハルヒもそれを察知したのか、慌てて手を前に出してブンブン振って否定する。 「あ!いや、違う、違うのよ有希!なんで急にそんな事言いだしたのかちょっと気になったっていうかね!だから気にしないで!」 長門はそれを聞いてなるほどといった風に話し出した。 「あなたは冬の合宿の際、倒れたわたしの看病をわたしが就寝するまで行った。 しかしわたしはその時は通常はそうするものなのだと認識していた。 だが実際の統計上、あなたの行った看病は明らかに平均のレベルを逸脱しており、 単なる義務行為以外に重大な理由がある事を推測させた。 だがわたしにはそれがなんであるかまではその時は正確に掴めなかった。 あなたが時折わたしの方を確認している事も知っていた。 それは「心配」という感情に似たものを感じさせたが、 わたしがあなたに心配される理由があるとは思っていなかった。 だが彼があなたがわたしの事を心配しているのだと教えてくれた。 あなたがわたしを友人だと思っていてくれている事も。 友人関係に当たる者はお互いの事をフルネームでなく名前単独や渾名やそれと分かる特別な名称で呼ぶ。 故にわたしはあなたの事を“団長”と呼びたい。許」 許可を。と言いたかったんだろうな。しかしその言葉が発される事はなかった。 なぜかって?見りゃ分かるだろ。ハルヒが長門を鯖折りでもしてんのかというぐらいに強く抱きしめてやがるからだよ。 抱きしめられる長門の顔を見ながら俺は思った。 …長門は、もしかしたら、いやもしかしなくとも、ハルヒのやつに罪悪感を感じていたんじゃないのか、と。 おかしくなって、世界を変えちまったことに対して。 なあ長門、別に気に病むことはないんだぜ、結果的に皆元に戻ったじゃないか。 それに、俺はあの世界で認識したんだよ、この日常の大切さを。 あの事件が無きゃ俺はこの思いを認めないまま過ごしていただろう。だから、だから長門。 …そんな泣きそうな顔しないでくれよ。 やがてハルヒは長門を抱きしめるのをやめて、長門の肩に手を置き、言った。 「大丈夫よ有希。有希がどっかに行っちゃうなんてあたしは絶対許さない。何があっても守ってあげる。 だからなにかあったらあたしに絶対言いなさい、…あたしはSOS団団長で、あんたの友達なんだから」 少しだけ目を見開く長門。全く今日はレアなシーンばかり見れるな。 ハルヒは、長門の肩を左手で抱き寄せて、右手で握り拳を作り、正面を向いて仁王立ちしながらこう言った。 「ううん、有希だけじゃない。みくるちゃんも、古泉君も、ついでにキョンも、 全員SOS団の仲間なんだから。みんな何か困った事になったら遠慮なくあたしに言いなさい。 何が来ようとも全部ぶっ飛ばしてやるんだから!!」 お前に本気でぶっ飛ばされたら、多分相手は地球の引力を振り切って二度と落ちて来ないぞ。 「分かった!?みくるちゃん!」 「は、はいっ!」 いきなり自分に声が向けられて思わずビクッとする朝比奈さん。が、 その顔は神話の全神々が出て来ても一蹴しそうな優美な微笑みだ。 「古泉君!」 「肝に銘じておきます」 いつも通りに見えるスマイルで答える古泉。 しかし若干柔らかめだ。 まあ実際はこいつの行動で俺達が困った事になり解決しているのだが。 それにこいつに全てを言うとそれこそ世界は崩壊の危機なのだが。 だがまあ、 「…キョン!分かった!?」 「…分かったよ」 …そんな事よりも、こいつがちゃんと俺らの事を考えててくれたって方がよっぽど重要だろ? 最後にハルヒは、もう一回長門と向き合って、言った。 「…わかった?有希」 「………わかった、団長。ありがとう」 その言葉を聞いた途端、ハルヒはもう一回長門を抱きしめた。 そんな傍から見たら異様な光景は俺からは何故だかとても微笑ましく見えた。 長門。心配なんかしなくてもいいさ。 無敵のSOS団は全員おまえの味方だからよ。 ハルヒ、何も一人で背負い込まなくたっていいぞ。 お前に荷物持たされる準備なら、俺はいつでもOKだぜ? 終わり